212.HPV(ヒトパピローマウィルス)ワクチンの話
今回も、専門外の話になります。しかし、この話はいかにも日本らしいと考えて、あえて取り上げてみた。HPVワクチンは、日本では接種率が低い。それは一時期に、HPVワクチンを中学2年生の女子に接種を始めたが、ワクチンによると思われる副反応でマスコミを含め大騒ぎになり、現在では世界中で日本だけが、接種が遅れてしまっている。世界では男女を問わず、HPVワクチン接種が進んでいる。子ども達を感染症や将来のガンから守る為に、何が大切なのか、横浜市立大学産婦人科教授、宮城悦子先生の話を参考に述べてみる。
日本では性について触れない家庭が多い。学校でも性教育に深く踏み込めない、いわゆる「歯止め規定」の影響が有り、「おしべとめしべ」のように、曖昧にされているのが現状である。本来であれば、子ども達が自分の体に興味を持ち始めた時期が、性に関わるガンなどの情報を伝える大事な機会であるのだ。このままでは、日本は国際的にカン予防の観点からも、どんどん遅れてしまうと懸念している。
子ども達が思春期の年頃になり、性交渉が始まると、男女の8~9割の人はHPVに感染する。(CDC:米国疾病予防センターHPVファクトシートより)感染した人の9割は免疫の力によりウィルスは自然に排除されるが、しかし1割くらいの人は、「持続感染」となり、遺伝子の異常が積み重なり、子宮頸がんへと進行する。日本では年間1万人が子宮頸がんにかかり、約3000名が亡くなっている(国立がん研究センターがん情報サービス「ガン登録・統計」より)。これは、年間の交通事故で亡くなるヒトよりも多い数字である。ではワクチンの接種が進むとこの数は減少するか?について調べてみた。
初めての性交渉の前に接種することで、HPV感染を最大で90%防ぐことができるといわれている。子宮頸がんによる年齢調整死亡率(高齢化などの年齢構成の違いによる影響を除き、国際比較や年代間の比較が正確にできるように計算された数値)をみると、2008年以降減っていない日本に対して、オーストラリアははっきりと減少傾向にある。(日本:1995年2.0->2023年2.0、オーストラリア:1995年3.8->2023年1.7)現在日本では小学6年生から高校1年生までの女子は無料接種できるが、ためらう保護者が多い。15歳時点の接種率を国際比較すると、カナダ、オーストラリアは男子・女子共に80%を越えており、日本は女子のみで36%と低水準である。ちなみにイギリスは男女で76%、アメリカは77%である。日本では男子は定期接種の対象になっていないので、データすらない。アメリカではHPVの中でも発がん性の高い型が原因となる中咽頭癌(のどの癌)が増加し、女性の子宮頸がんを上回ったことから、男性への接種が定着している。接種することで、男性特有の陰茎がんや男女ともにリスクのある肛門がん、尖圭コンジローマなどの疾患予防、将来のパートナーへの感染リスクを減らすことにも繋がる。この男性特有のがんの予防にも繋がるということは、学校教育でも伝えた方が良いと考える。
いま、日本で男子がHPVウィルスワクチンを接種すると、約6~10万円程度の費用が全額自己負担となるが、公費助成を独自に行う自治体も増えている。現在このような情報を各学校宛てにパンフレットを配る様な取り組みは行われていない。女子への接種については文科省から通知は出ているが、それがどこまで保護者や子ども達に届いているか現状は分からない。
日本が予防接種率の低い理由の1つには、国民皆保険制度が、アダになっている側面もある。OECDの医療レビュー(OECD Reviews of health Care Quality;Japan2015)等でも指摘されているが、常に安価で質の高い医療にアクセスできる状況から、「自分の体を主体的に守る」という意識が薄れ、予防接種や検診率が上がらないといわれている。
アメリカ、イギリスなど海外では、日本ほど医療保険システムが手厚くないので、ワクチン接種率や検診受診率が高いのは、自分の体は自分で守らなければ、「病気になったら破産してしまう」という危機感が背景にあるかもしれない。
また、万が一副反応が起きたときはどうなるのか?
接種したところが腫れたり痛んだりすることは実際にある。そのような局所の痛み以外の症状が出たときのために、「HPVワクチン拠点病院整備事業」(ヒトパピローマウィルイス感染症の予防接種に関する相談支援・医療体制強化のための地域ブロック拠点病院整備事業、厚労省)として、しっかりとした診療体制が整えられている。
これは、全国に12の拠点病院があり、万が一、接種後に全身が痛む等の場合、接種したクリニックに相談した上で受診できる。例えば、神奈川と千葉をカバーする横浜市立大学附属市民総合医療センターのペインクリニックは、本来は1年待ちであるが、副反応が疑われる方には、2週間以内を目標に対応している。
1人でも多くの人にワクチンの重要性とサポート体制について知っていただき、正しい知識に基づいた選択をして欲しい。
-スペシャルトークセッション:アエラNo.36、8.10.2026 より、引用した-

