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2020-01-30

133.カサンドラ症候群について、

カサンドラ症候群とは、アスペルガー症候群(AS)や注意欠陥多動性障害(ADHD)などの自閉症スペクトラムの特性を持つ人とのコミュニケーションが取れないパートナーが、心身に支障を来す状態(但し国際疾患分類の正式な病名ではない)。割合として、男性がASやADHDで女性がカサンドラとなる場合が多い。誰もが知る大企業で出世し、関連会社の社長を務めたこともある上品な紳士X(73)に、青天の霹靂が起きたのは3年前。引退して10歳年下の妻と悠々自適の老後を楽しもうとした矢先に別居を宣言された。「家内曰く、鋭いナイフでスーッと心を切られるような毎日だったそうです。妻をカサンドラにしてしまった責任は全て私にあります」「どのような振る舞いが妻を傷つけたと思いますか」そう問うとXは何度も首をひねり、困惑の表情を浮かべた。不機嫌になる原因を尋ねると、またしばし考え、「嫌なことを話題にされたときですかね」。「こだわりは強いですね。そうだなあ、焼きそばにはビールとか」2時間近く話したものの、「鋭いナイフ」云々とは結びつかないエピソードばかり。Xの了解を得て妻に話を聞いた。すると「夫は3重人格みたいな感じです。1つ目はエリートなのに腰が低く、温厚で誠実な人」妻もそこに尊敬の念を覚えて結婚したが、間もなく「怒りっぽく」「幼児性の強い」人格が顔を出してきたという。妻曰く「他人と一緒にいれば、怒る時に”加減”というものがあると思うが、AS・ADHDの特性で他者認識がないのか、自分の”不快”をモロに出して、怒りが全身からあふれ出す感じなんです。しかも何に怒っているのか本人も分からないみたいで、聞いても答えられない」。妻がAS・ADHDについて知ったのは3年半前。それまでの数十年は夫の機嫌が悪くならぬように「寒くない?」「何か食べたい?」と気を遣い、世話を焼き続けた。夫は何でも察してくれる母親に甘える幼児のように振る舞う一方で、妻の求めは無視、拒否、見下すことも多かったという。たとえば「ネクタイを選んでと言いつつ提案は全て却下」「ホームパーティーで、妻の手料理で場が盛り上がったところで突然、無関係なネタで妻をこき下ろす」など、Xの話とは対照的に次々とエピソードが出てくる。些細なすれ違いでも、毎日、何度も繰り返されるうちに、妻は「磁場が狂ってくるような感じ、おかしいのは夫なのか、自分なのかさえ分からなくなった」。5年ほど前には突発性難聴を患い、やがて起き上がることも辛くなり、最後は夫にスリッパを投げつけて「もう限界」と泣き叫んだ。「AS・ADHDの人は物事をうまく概念化できない」と言われる。定型発達の人が新しい出来事にうまく対応できるのは、目前の事象と過去の事象が同じようなことだと理解し「多分こんなことだな」と「概念化」できている。だがAS・ADHDの人は毎日違うことが起きていると捉えてしまうために、過去も現在もバラバラの点として存在し、線や面にならない。AS・ADHDの人で外の世界ではうまくいっている人もいる。社会性は周囲の人の状況を自分に置き換えて考えることで形成されるが、彼らはそれを”損得”で身につけてきたという。仕事は基本損得の世界であり、情に流されぬ方がうまくいく面もある。要は定型発達とAS・ADHDの人では、”認知パターン”が違う。しかし、カサンドラになってしまった妻にすれば、「だから理解してあげて」と言われても到底納得できない。彼女たちが受けた深い傷や悲しみを夫にも社会にも理解されずに苦しんできたからだ。このような夫に対して、妻の取るべき道は、「自分軸」を強めること。夫は変えられないが、自分は変えられる。夫婦だからこうあるべきとか、家族皆がそろっていないとダメとか、それを一旦ゼロにする。すると夫のことも俯瞰して見られるようになり、夫との距離をとれるようになる。しばらくその状態で頭を冷静にして、相手の特性を知って、自分が悪いのではないと気づくこと。相手を理解してあげるのではなく、自分が楽になるために自分を変えることが大切である。
~「二人なのに一人」の絶望、自閉症スペクトラムの共感性欠如に苦しむカサンドラ妻たち:アエラNo.58.Dec.23.2019 より抜粋引用~

2020年01月30日
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