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2024-08-01

187.PFAS(ピーファス)による水質汚染とはなにか?

そもそもPFAS(Perfluoroalkyl substance)とはなにか?これは有機フッ素化合物の総称である。代表的なものとしては、PFOS、PFOA、PFHxSがある。分子内にフッ素が導入されることで、化学的な安定性が増して、紫外線、熱分解なとに耐性ができ、撥水性、両親媒性を得る。泡消火剤やテフロンの溶剤、撥水加工剤など、多様な用途に使われてきた。3次元的な構造は脂肪酸に似ており、熱分解に強いため半導体や先端技術に用いられる。
しかしPFASには免疫毒性や腎臓がんなどの健康リスクが指摘されている。2024年3月29日に環境省は、PFOSおよびPFOAの全国の環境水のモニタリングの結果を報告した。それによると、公共用水域および地下水の測定地点38都道府県、1258地点での測定では、環境省の暫定の指針値(50ng/L)を越えている地点は16都道府県、111地点に及んでいた。汚染は全国の河川水や地下水に広がり、PFASによる汚染は決して限られた地域の環境汚染ではなく全国の課題であるといえる。製造過程でPFASが使われる半導体やフッ素系樹脂などの工場からの排水が汚染源となっていることもあるが、その排水を除去するために使われる活性炭が、産業廃棄物として廃棄され、産廃によるPFASの土壌および地下水汚染が発生している。また、米軍基地における泡消火剤による消火訓練なども汚染源と見られている。薬剤では、安定性を増すため、流通している製剤の約2割にフッ素が導入されており、代表的なフッ化剤はフルオロキノロン剤がある。キノロンの構造中にフッ素を導入して安定性を増したもので、環境汚染による薬剤耐性菌の出現の原因となっていると推定される。最近の米国での泡消化剤による土壌汚染研究では、構造式が不明なPFAS、酸化過程で土中での分解をうけて別のPFASを生成する有機フッ素化合物、最終的に分解せずに環境中に残留し続けるPFASの存在が明らかになった。泡消化剤は、もし除去が行われないと、土壌中で今後数百年の時を経て、残遺PFASに分解していく。さらに多くの米国の汚染現場からの報告によると、残遺PFASは50%程度であり、残りの大部分は構造式未知のEOFやTOPであるとされている。健康被害として考えられることは、PFASは腸管から吸収され、脂肪酸と同様に血液から肝臓をはじめとする臓器に取り込まれる。PFASは体内で様々な生理作用を有しているが、結果的に過酸化水素水やフリーラジカルの生成を促進して、細胞毒性や遺伝子毒性を発揮する。
 *健康リスクの強固な疫学的エビデンスについて:2022年にPFASの健康影響および臨床的な管理に関するシステマティックレビューが公開された。精査の結果、ワクチンの効果の減弱、脂質代謝異常、新生児の生育抑制、腎臓がんのリスクの増加について、十分な疫学的エビデンスがあるとされた。さらにこれらを踏まえて、血清濃度がPFASの合計値で(推奨は20ng/L以下)を越えた場合には、腎臓がんや睾丸腫瘍の検査、脂質代謝異常の検査、甲状腺のTSHの測定などを医師が行うことを推奨している。IARC(国際がん研究機関)は、2023年11月に発がん性の評価を公表して、人への発がん性があるとして、PFOAをグループ1、PFOSをグループ2Bに分類した。このグループ1とは発がん性の高いアスベストやダイオキシン等と同様の管理が求められている。全国で、PFASによる多くの地下水、河川水あるいは浄水での汚染が明らかにされたが、大まかに、汚染物質によりPFOSとPFHxSの優勢な汚染地とPFASが優勢な汚染地に分けられる。泡消火剤由来のPFAS汚染は、沖縄県の嘉手納基地、普天間基地周辺および東京都多摩地域の横田基地周辺で生じている。宜野湾市周辺住民の血中濃度は、水道水汚染のない南城市に比較してPFOS、PFHxSともに高い。また、2022~2023年にかけて行われた多摩地域の横田基地周辺住民の調査では、46.3%の住民において、PFOSとPFOAを合わせた血中濃度が、米国アカデミーが公表した臨床ガイダンスの警告値20ng/Lを超過していた。一方大阪府下の血液検査では、現在進行中であるが、459名の参加者のうち、181名は摂津市で採血され(2024年1月現在)、PFOAの値が高く、33%の参加者が米国ガイダンスの警告値を越えている。現在の汚染源は十分に解析されていないが、過去の水道水汚染の残遺と、一部は汚染した土壌で栽培された農作物の消費と考えられている。2023年に町民の飲料水源である河平ダムの汚染が明らかになった岡山県吉備中央町では、住民有志27名の血液検査を行ったところ、全員が米国ガイダンスの警告値を越えていた。岡山県の調査によれば、PFASを取り除くために使用された活性炭を、町内の企業がフレコンバッグに入れて放置し、バッグから漏出したPFOAが水道水源を汚染したものであった。
 *汚染問題の解決に何が必要か?:WHOはグローバルヘルスの観点から、健康を決める要因として「社会的要因(SDH)」が重要であると指摘している。その中で更に踏み込んで、日常生活の状況を改善する要因として、水と衛生設備などの自然環境が保護される重要性を指摘している。日本においても、「SDH」は健康格差を引き起こす要因として厚労省が推進する「健康日本21」で認識された。しかし「環境」を社会的環境に限定しているため、がん予防や食環境、ライフコースアプローチで胎児と妊婦へのリスクを提唱しつつも、十分なエビデンスのある環境汚染問題が漏れているのが現状である。日本では、PFASが欠かせない半導体製造に対して経産省が主導して湯水のように大量の補助金をつぎ込んでいる。このような経済安全保障の名の下に行われる財政出動を十分に監視する必要がある。
 米国では、2024年4月10日に法的拘束力のある水道水の新基準を成立させた。内容はPFOS、PFOAともに4PPM未満、PFHxS、PFNA等は10PPM未満とする基準である。日本においても法的拘束力のある同様の基準が必要である。
なお、PFASは現状では半導体や医薬品をはじめ、最先端の技術には欠かせないものであるが、除染技術を含めて考えると、新たな環境調和の産業へと結びつく可能性を秘めている。既に米国では、脱PFASに向けた研究が進んでおり、日本でも脱PFASに向けての研究開発の加速が望まれる。これら最先端の産業が環境調和の中で開花することを期待したい。
小泉昭夫「PFASによる水汚染とは何か?」月刊保団連、No.1427,July.2024より抜粋引用

2024年08月01日
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