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2021-09-05

152.あなたもきっと依存症-「快」と「不安」の病について、

 実は日本で最も多い病気の一つが依存症である。例えば、喫煙人口は着実に減っているとはいっても、まだ1800万人を越えている。30、40代の男性のおよそ1/3は喫煙者である。アルコール依存症は、推計では109万人とされている。またその予備軍を含めると2500万人ほどである。ギャンブル依存が疑われる人は、国民の3.6%、先進国中最多である。実数にすれば、300万人を越える。中高校生のインターネット依存症は93万人という調査結果が出ており、これは5年間でほぼ倍増している。もちろん重複している人もいるが、これらの数字を単純に合計すると約5000万人、国民の約半分近くが何らかの依存症である。さらに「仕事中毒」等と言われるように、過度に仕事に依存している人も相当数いるだろう。糖にも強力な依存性があるため、ダイエットしようとしても、炭水化物(米・麺類・パン)や甘いものを辞められない人は、糖への依存症である可能性が高い。これらの食品は我々の主食であり、あまりにも日常的な物であるが故に、統計があるわけではないが、炭水化物や糖に依存している人は、何千万人もいることになる。
犯罪としての依存症を見てみると、日本は世界的に見ても薬物使用人口は非常に少ない国である。それでも毎年1.5~1.6万人ほどが覚醒剤取締法違反で検挙されている。再犯率は30%ほど、あらゆる犯罪の中で窃盗(約34%)に次いで2番目に多い。一番再犯率が高い窃盗を繰り返す人の中には、クレプトマニアと呼ばれる窃盗癖の人が一定数いる。これも依存症ととらえることが出来る。また、痴漢と盗撮も再犯率が高い犯罪である。これら性犯罪を繰り返す人の多数も、性的依存症であると考えられる。警察庁の統計を見ると、痴漢と盗撮で、毎年3000人ほどの人々が検挙されている。検挙されるのは氷山の一角であり、実際に痴漢や盗撮行為を行っている人が何万人いてもおかしくない。このように、犯罪であるかないか、健康や生活に及ぼす害の大きさなど、様々な違いはあるにしても、依存症やその予備軍は「国民病」あるいは「現代病」といっていいほど日本に蔓延している。
では人はなぜこのような依存症になってしまうのか。実は人は依存症になりやすく出来ているからである。進化の過程で依存症になりやすい遺伝因子を持っている人が生き残っているのだ。二つのキーワードがある。第一には「快」である。人の生き残り戦略として、「快」の追求はとても重要である。例えば原始時代、エネルギーの豊富な炭水化物を多く摂取する人、沢山セックスして子孫を残した人は、その遺伝子を多く残すことが出来たであろう。食が細く炭水化物を好まない人やセックスが嫌いな人は、遺伝子を残さずに滅びていったと考えられる。我々の脳の中には、「快」に対して敏感に反応する回路、「快感回路」がある。しかし、時にその装置が暴走して、「快」のためには日常生活や人生などどうでも良いという状態になる。つまり生き残りを目的とした戦略としての「快」であったはずが、「快」そのものが目的化してしまうのだ。これが依存症である。第二には、「不安」である。原始時代に戻って考えると、太古の人々は幾多の脅威に裸でさらされていた。それは自然災害、病、飢餓、捕食動物、他の部族からの攻撃など。これらの脅威に最も有効な武器は、「不安」である。生き残るためには、脅威を敏感に感じ取り、不安を抱いて、そこから逃げたり、被害を最小に押さえるための予防策を講じることが一番適切な対処である。進化の過程で不安に鈍感な人々は淘汰され、敏感に不安を感じる人々が生き残った。現代人が産み出した様々な発明は、ほとんど全て不安に対処するための物といっても過言ではない。とはいえ、誰もがいつも賢明な対処を取るとは限らない。脅威にさらされたとき、心理的な余裕がなくなり、時に非合理的な対処をすることもある。例えば慢性的な不安に苛まれている人は、心身ともに弱ってしまい、手っ取り早くアルコールで気持ちを紛らわせようとするかもしれぬ。何かにせき立てられるように働く、「仕事中毒」のような人は、仕事を失うことや自分の価値を見いだせないことに対する不安が根底にあるかもしれぬ。つまり現代人の不安を鎮めるための対処法の一つとして、様々な物に依存する人が増えているということである。依存症とは不安から逃げられない人が、その不安を紛らわせるための病でもある。
しかし残念なことに、現在依存症に対する間違った知識や誤解があふれている。これでは、正しく賢く依存症に対処することは出来ない。
原田隆之著「あなたもきっと依存症」-「快と不安の病」から抜粋引用

2021年09月05日
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