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2015-05-09

76.「働かないアリに意義がある」について、

人は、「他人のいる社会」に生活している。人と人との関係、或いは所属する集団と他の集団との関係が社会を作る。ところで、社会性を持つ生物は他にもたくさんいるが、特殊な社会構成を持つ生物を「真社会性生物」と呼ぶ。たとえばアリやハチであり、女王を中心に集団生活を営んでいる。彼らは繁殖を専門にする個体と、労働を専門にする個体(ワーカー。アリで言うと働きアリ)から成るコロニーを作っている。しかし集団生活をするムシたちは司令塔がいない。この場合必要な労働力の確保はどうやって動かしているのか。アリの研究によれば、巣の中の働きアリの7割は、働かないことが判明している。目的もなく歩いたり、ぼーっとして働かない、労働とは無関係な行動ばかりしている。これはアリの種類を問わず、同様であった。そこで、ある研究者が働きのよいアリだけを集めて、「精鋭部隊」を作ったらもっと働くのではないかと実験してみたところ、結果はやはり2~3割はサボるのである。逆に最初にサボっていたアリを集めて「怠け者部隊」を作ったところ、やはり7~8割は働いたそうそうである。彼らは「怠け者」なのだろうか。よく観察すると、彼らは一種のベンチ要員で、他のメンバーが疲れて動けなくなったときにヘルプに入り、コロニーの危機を救うと考えられている。また、一見お馬鹿さんに見えるアリが一定数いた方が、フラフラと列から離れて迷っている内に、近道を発見するなどして、群れ全体としてはエサの持ち帰り効率が上がるという。冒険の全くない人生が味気ないように、効率ばかりを追い求める組織も実は非効率なのかもしれぬ。さらにヒトのように知性のないアリがどのようにして司令官もなしにこのような社会システムを完成させ、維持しているのか。アリは新たな仕事が生じると、その処理に必要な個体が集まってきて処理してしまうのである。これは、フェロモンや接触刺激などの最小限の情報伝達は使われるが、ヒトの社会に広く見られるような上位の者から下位の者へと(あるいは逆)情報が段階的に伝わる、階層的情報伝達システムは一切無いままに必要な仕事の処理が行われる。コロニー全体の情報共有も行われない。実は、アリ個体ごとに労働に対する「反応閾値」の多様性があって、環境の変化に対応して行動を起こすアリが増えるという仕組みがある。社会が複雑化してくると、個人は生活の多くの部分を社会に依存しているために、一人で生きて行くことは想像もできなくなる。ヒトでもムシでも、各個人は社会システムのなかで生産活動を行い、その一部を何らかの形で社会に還元することにより、社会を維持するために必要なコストが賄われている。ムシであれば幼虫の世話等の労働であり、人では税金である。ところが、「個体が貢献してコストを負担することで廻る社会」というシステムが常態化すると、これを利用して、社会的コストの負担をせずに自らの利益だけを貪る「裏切り行為」が可能になる。人の場合、社会的コストを応分に負担せずに社会システムがもたらす利益だけを享受する者が増え、社会システムの維持に問題が生じることをフリーライダー(ただ乗り)問題と呼んでいる。このフリーライダーが増えると最終的には社会システム事態が崩壊する。

ー長谷川英祐「働かないアリに意義がある」より抜粋引用-

2015年05月09日
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