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2010-07-07

3.薬物心理学(Pharmacopsyhology)について

 昨今よく話題になる言葉に、薬物心理学という単語があります。薬物の効果を見ようとするときのテストとして、二重盲験法という方法がとられます。全く同じように作られた偽薬(プラセボ)と、本物の薬を、服用してもらう被験者に分からない様にすると共に、投与する研究者にも分からないようにするテストのことです。真実を知っているのはごく少数の人だけで、少なくとも投与する研究者の先入観が、結果に影響しないようにする試験方法です。この方法で新薬の多くは本当に効果があるのかどうか、検証されるのです。このようなテストを行うと、新薬の多くがプラセボの効果とさして変わらないといケースがあって、海外ですでに使われている多くの新薬が、日本では承認されないということがしばしば起こります。有名なところでは、抗うつ薬フルオキセチン(商品名プロザック)が海外では有効とされているが、二重盲験法を行って調べてみると、ほとんど効果はプラセボと変わらないという結果が出て日本で承認されておりません。実は最近の新薬のほとんどが、プラセボにはっきりと差を付けて勝てる薬は少ないと言われております。困った話なのですが事実です。つまり、偽薬でもかなり症状が改善されてしまうのです。人の心理は大きく病状を回復させる効果を持つのです。正にこれが薬物心理学と言われている部分であり、薬物が心理的機能に影響を与えている証拠になるのです。これは19世紀、近代精神医学の祖と言われているエミール・クレペリンが既に指摘していたことで、その後50年以上忘れ去られていた話でした。忘れ去られていた50年間は、何を研究していたのかといえば、精神作用を示す薬が結合する受容体の発見、及びそれら薬物が脳にどれだけ吸収され、どのように分布するかといったことが主な関心でした。現在の主流の抗うつ薬や抗精神薬のほとんどはこうした、どの受容体に感受性があり、そして脳にどれだけ分布して吸収されるかを中心に考えて作られた薬物なのです。しかし結果は既に述べたとおり、プラセボとほとんど変わらない効果しかないというのが現状です。これからは薬物を服用した被験者の印象や言葉にもっと耳を傾けて、生の感想を聞くことが求められると思います。これまで被験者の声を言葉通りに解釈してもあまり意味はないと考えられておりました。その理由は、被験者の声は個人的な感想であり、客観性に乏しいという曖昧な理由の否定した。50年を経て、ようやく今、大切なことは被験者が薬を服用してどんな変化を実際に体験したのかを明らかにし、同時にそのような体験の申告が心の機能研究に貢献するという原点に立ち返ることだといわれ始めました。

-デイヴィッド・ヒーリー著「精神科治療学ガイド」を参照した-

2010年07月07日
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