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2017-08-02

103.日本人の体質-欧米人とはこんなに違った,No.2、

今回は、日常診療の中でも気になる肥満、また脂質異常症について述べてみたい。脂質といえばコレステロールだが、実はコレステロールは血管の強度に必要な物質である。これが低いと血管が破れやすくなり、脳出血などを起こす。逆に高すぎると、今度は脳梗塞などの血管障害を起こしてしまう。総コレステロールには、善玉コレステロール(HDL)と悪玉コレステロール(LDL)の合算であり、成人の体内に存在するコレステロール量は約100~120g。スーパーで見かけるバターは200gだから、その半分ちょっと。特に脳と神経系に多く、全体の1/4が脳にある。また全身の細胞を包む膜の成分になっているし、脂肪の消化を助ける胆汁や生体活動を調節するホルモン、たとえば副腎皮質ホルモンや性ホルモンの原料でもある。さらに骨粗鬆症を防ぐビタミンDを体内で合成するにも、コレステロールが必要である。このコレステロールは、70%が肝臓などで合成され、食事から取るのは30%にすぎない。健康であれば、口から取るコレステロール量が増えると体内合成が減って、余分なコレステロールは排出されるから、血中のコレステロールは常に正常範囲に保たれる。しかし、長期にわたりコレステロールを大量に取ったり、体内のコレステロール合成が増えたり、加齢や病気によりコレステロール濃度調整の機能が低下すると、血中コレステロール値が上昇し、動脈の内側に蓄積して動脈硬化を来す。脂肪の仲間のコレステロールは水に溶けないので、水となじむ蛋白質と結合して、水に溶けやすい形となり、そこに中性脂肪もくっついて大きな固まりとなって流れている。出発点は肝臓で、悪玉LDLは肝臓から全身の組織に向かう方向、善玉HDLは全身の組織から肝臓に向かう方向の流れと考える。つまり悪玉LDLが増えると、コレステロールが血管の壁にしみこんで動脈硬化の原因となる。しかし、普段は血管壁を強くしたり、細胞を作ったりホルモンの合成をしたりと重要な役割がある。善玉HDLは動脈硬化の起きそうな箇所を見つけると、コレステロールを引き抜き、動脈硬化を防ぐ。中性脂肪とは何かと言えば、皮下脂肪や内蔵脂肪そのもので、普段はエネルギー源として使われる。中性脂肪は動脈壁にたまることはないが、悪玉LDLは中性脂肪を元に作られるので、脂肪摂取しすぎると悪玉LDLが増える。しかも同じ材料でできているので、悪玉LDLが増えると善玉HDHが減る。さらに中性脂肪は悪玉LDLにより運ばれたコレステロールが動脈硬化を起こすように促す。最近の研究で、悪玉LDLの動脈硬化発症の仕組みが分かってきた。動脈硬化を起こすのは悪玉LDLそのものではなく、それが酸化してできる酸化LDLであった。中性脂肪には、悪玉LDLを小粒にして、酸化されやすくする働きがあり、小粒になると血管壁にしみこみやすくなる上に、血液中に滞在する時間も長くなる。この時中性脂肪と共犯関係にあるのは、活性酸素である。活性酸素は小粒になったLDLを酸化LDLに変えてしまう。生活習慣のなかで悪玉LDLを強力に酸化するのは喫煙である。タバコの煙は、酸化力を持つニコチンや一酸化炭素に加えて、活性酸素そのものが含まれる。さらに中性脂肪を増やして、善玉HDLを減らしてしまう作用があり、喫煙することは坂道を転げ落ちるように動脈硬化を進行させる。
 さて、女性に動脈硬化が起こりにくいのは、女性ホルモンのエストロゲンの作用である。そのため、若い間はエストロゲン効果により悪玉LDLがあまり上がらない。しかし、更年期に入るとエストロゲン分泌が下がるため徐々に上昇して、50代に入ると男性を追い越して、60代では女性の半数近くが日本動脈硬化学会の定める基準を超えている。しかしそこから動脈硬化が始まったとしても、その進行は男性より20年遅れであり、また、エストロゲンは善玉HDLを増やす作用があり、女性は生涯にわたり脳血管障害の発症率は男性より低い。
-奥田昌子「欧米人とはこんなに違った日本人の体質」より引用-

2017年08月02日
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