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2012-06-28

42.なぜ自殺者は3万人を超えているのか?その1。

マスコミは連日、日本の自殺者は3万人を超えていると報道する。確かに警視庁の調べによると、1998年から2010年までの13年間連続で、年間自殺者数が3万人を超えている。政府も緊急の課題として自殺対策事業を行っている。自殺予防や対策に、2006年は184億円、2007年247億円、2008年144億円、2009年139億円と多額の予算が使われている。なぜ自殺者が3万人を超えているのか。その原因や対策については様々な人が推察している。日本経済の停滞を重視する評論家もいれば、格差社会が広がった結果であるというジャーナリスト、あるいは、セーフティーネットの充実を主張する社会活動家もいるし、医療機関への早期受診を訴える精神科医もいる。
自殺の統計について報道しコメントする場合には、その背景をきちんと伝えることが必要である。マクロの数字はどうしてもセンセーショナルに受け止められるからである。自殺報道は、数字の大きさを強調しすぎると悪い効果を及ぼす。多くの健康リスクや不慮の事故において、問題の重要性を世の中に呼びかけ、危機感を煽ることは、よい方向に働く。例えば日本では年間7万人が肺がんで死亡しているし、約9千人が窒息死(食べ物をのどに詰まらせる例が大半である)している。これらの報道を聞けば、禁煙する人が増えるかもしれないし、介護施設の職員は老人の食事にさらに気をつけるだろう。しかし自殺の場合は事情が異なる。自殺報道が過剰になると、むしろ自殺を誘う方向に働く可能性が高い。これは過去の歴史や統計から実証されている。有名な芸能人が自殺を図った時に、後追い自殺のような現象を思い出してほしい。このようなセンセーショナルな自殺報道の後に自殺者が増えることをウェルテル効果と呼ぶ。ゲーテによって書かれた「若きウェルテルの悩み」という小説が出版後に、欧州で若者の自殺が急増したことから名付けられた。ゆえに抑制のない過剰な自殺報道は、自殺を促進してしまう。自殺を考えたことのない人は、日本で自殺者が増えていると聞いても、冷静に受け止められる。しかし自殺を迷っている人の場合、こういった数字を悲観的に捉え、社会に絶望し、自殺を考えるきっかけになることもある。これらのことから、過剰な自殺報道やセンセーショナルな自殺統計の説明は、社会に自殺への注意を喚起するよりも、自殺への関心を増やすことになる。これらを踏まえて、WHOではメディア関係者向けに自殺予防の手引きを作っている。1.統計学は注意深く、そして正確に説明されること、2.「自殺の流行」もしくは「世界でもっとも自殺率の高い場所」といった表現は避けるべき。3.即興的なコメントは注意深く用いられなくてはならない。
–冨高辰一郎著「うつ病の常識はほんとうか」日本評論社より引用–

2012年06月28日
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