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2013-06-02

53.双極性障害(躁うつ病)のうつ病相と単極性うつ病について、

双極性障害(躁うつ病)のうつ病相と単極性うつ病の違いはどこにあるのだろうか。これは初診の時はなかなか見分けのつかない、難しい診断であるが、十分に注意深く病歴を聞くことにより、鑑別することは可能である。しかし、時間の制約などのために不十分な病歴聴取の結果、うつ状態と思って治療していた患者さんが、経過を追ううちに躁状態を呈したというようなことは時々経験する。ここで、初診の時にしっかりと鑑別するポイントはどこにあるのだろうか。一つは、クレペリンの言うように、同じうつ状態でも、双極性障害の場合には、発症年齢が比較的早い事が特徴とされる。単極うつ病は発症年齢がより遅く、20代後半から30代前半に中央値がある。たとえば、単極性うつ病の臨床試験に参加した平均年齢12.3歳の72名の子どもたちについての研究では、10年間の追跡調査にて、48.6%が躁病または軽躁病のエピソードを起こしていた。別の研究でも、当初単極性うつ病エピソードで入院していた74名の若い成人(平均年齢23.0歳)について、15年間の追跡調査にて、ほぼ同様の人数(46%)が躁病または軽躁病を発症していた。逆に、うつ病で初診治療を受けた平均年齢が30代前後の559名のサンプルの11年間の追跡調査では、躁転により双極性障害へ診断が変更された率は、12.5%とかなり低い事が報告されている。
 双極性障害の最初に現れる気分エピソードとして最も多いのは、躁病エピソードではなく、むしろ大うつ病エピソードであることを認識する必要がある。したがって、若い成人や子どもで新たに発症したうつ病の場合、双極性障害になる可能性が推定約50%とかなり高率である。気分エピソードの反復は、単極うつ病よりも双極うつ病でかなり多く認められる。単極うつ病の患者の約1/4は13.5年の追跡調査で新たな気分エピソードを一つも経験していない。対照的に、双極性の患者のほぼ全員が、4年間の追跡調査中に反復する気分エピソードを経験し、通常の自然経過では平均して、約1年に1回の気分エピソードを示している。また産後のうつ病エピソードの発症が、単極性、双極性のいずれのうつ病でも高い罹患率を示しているが、単極よりも双極うつ病のほうが多いというデータがある。1年に4回またはそれ以上のエピソードを示す急速交代型は、双極性障害と比較して単極うつ病では非常に希である。
 病前の発揚(高揚)性パーソナリティーは、もう一つの重要な経過特徴である。
気分エピソードを評価する場合、その患者の通常のパーソナリティーがどのようなものであったかということである。発揚性のパーソナリティーというのは、慢性的に軽躁状態で、陽気で社交性に富み、非常に外向的なパーソナリティーのことである。このような人は特徴として、普通の人よりも睡眠を必要とせず(6時間以下)、仕事(仕事中毒)や社会的活動で費やす多大なエネルギーを持っている。彼らはまた、性欲も旺盛で、普通の人よりも性的無分別な原因による夫婦間の争いを多く抱えやすい。発揚性パーソナリティーは、双極性障害をもつ患者の家族に多く認められる事が報告されている。発揚型パーソナリティーは、抗うつ薬誘発性躁病の予測因子でもある。

-「双極うつ病」Rif S.El-Mallakh.M.D.,S.Nassir Ghaemi.M.D.著(訳)田島治、佐藤美奈子、星和書店2013.2より引用-

2013年06月02日
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