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2013-05-02

52.妊娠と抗うつ薬(SSRI)について、本当にリスクが上がるのか?

最近、デンマーク保健医療省はSSRI投与と周産期死亡率の関連性について、警告を発している。これは周産期死亡率とSSRI服用の間に、関係があるという数件の報告があったことによる。そこで今回は、妊娠中にSSRIを服用していた妊婦から生まれた子どもについて、死産率、あるいは新生児死亡率に影響があるかどうかという報告である。この研究は1995年から2008年にかけて、出産した記録を基に、妊娠中にSSRIを服薬した妊婦と、出産した新生児について調べたものである。総出産件数974805件、このうち、記録ミスや二重記録などの、不適切なデータを取り除き、920620件を調査対象とした。この中で、SSRIを服薬したケースは12425例であった。3982例は妊娠初期、2065例は妊娠初期と妊娠中期、また、6378例は妊娠期間中ずっと服用していた。
 さて、1995年から2004年までの間の総死産数は3919例(死産率0.43%)であり、2005年から2008年では1206例(0.47%)であった。この中でSSRIを投与された妊婦からの死産は75例(0.60%)であった。さらに、21例(0.53%)は妊娠初期の服用、12例(0.58%)は妊娠初期と妊娠中期の服用、42例(0.66%)は妊娠期間中ずっと服用していたケースである。単純に比率から見ると、SSRI服用していた妊婦の死産率は、服用をしなかった妊婦の死産率と比べて、有意差を持って死産率が高いといえる。しかし、このデータに、妊娠年齢、夫の収入、教育レベル、出産年齢、さらには母親の喫煙歴などの要因を均等に加味して、これらデータを見直すと、どのSSRIも、有意差が無くなることを示した。
 すなわち、無修正の粗死産率比較では、妊娠中SSRI非服用群死産オッズ1にたいして妊娠中SSRI服用群死産オッズ1.55と、有意差を持って高い値を示している。しかし妊娠年齢、夫の収入、母親の教育レベル、出産年齢、母親の喫煙歴など、幾つかの要因を適応したデータを作って見直すと、母体がSSRI非服用群死産オッズ1に対して、SSRI服用群死産オッズは1.06となり、これはリスクの有意差がないといえるデータである。同様に新生児死亡率を比べた場合に、無修正の粗新生児死亡率比較では、SSRI非服用群オッズ1に対して、妊娠中SSRI服用していた母体から生まれた新生児死亡群オッズ1.41と高いデータを示すが、同じようなデータの適応をして比較してみると、SSRI非服用群オッズ1に対して、SSRI服用群オッズ1.27となり、これも統計的に有意差がない範囲であり、新生児死亡についてもSSRIの服用は関係がないといえる。
なお、ここで使われた薬剤はフルボキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、パロキセチン、サートラリンの五種類の薬剤である。
以上述べたことより、妊娠中にSSRI服用した場合にも、服用しなかった妊婦と比べて、詳しい分析をすると、死産や新生児死亡については、統計的に有意差を持って、リスクが上がることはないという結論である。

–E.Jimenenz,Morten Petersen et al:March,2013 The American journal of pychiatryより引用–

2013年05月02日
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