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2013-09-03

56.ニコチン依存症とニコチン関連遺伝子について

1)脳内報酬系とニコチン依存
ニコチン依存のメカニズムにつき説明する。タバコを吸うとタバコ煙中のニコチンは肺から吸収され血中に入り、直ちに脳内報酬系へと運ばれる。脳内報酬系とは、ヒトの脳において欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、その個体に快感を与える神経系のことである。脳内の神経伝達は神経細胞間の軸索突起で連絡されており、その接合部はシナプスを作り、電気的興奮を起こすことにより、情報の伝達を行っている。そのシナプス間隙に放出される神経伝達物質として、アセチルコリン、ドパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、ヒスタミンなどがある。さて、血中に入り、脳内報酬系に運ばれたニコチンはシナプス内に入り込み、シナプス前膜へ働き、神経伝達物質の産生・放出を促す。一方のシナプス後膜へは神経伝達物質の代わりとして、受容体を介さずに直接的に働き、電気的興奮を引き起こす。すなわち誤作動を起こすわけである。脳内報酬系の神経でこの作用が起こり、覚醒作用、気分高揚作用、精神安定作用などの症状をもたらす。シナプス間隙に残った神経伝達物質は分解や再吸収により、速やかに消失するのに比較し、ニコチンはなかなか消失せず、シナプスは常時刺激を受け、興奮され続けることになる。喫煙により神経伝達が過剰になると、調節機構が働き後膜の受容体数が徐々に減少(down regulation)し、シナプス前膜の神経伝達物質の放出能力が低下する。 
2)ニコチン受容体とは
アセチルコリンは神経伝達物質であり、その受容体をアセチルコリン受容体と呼ぶ。アセチルコリンにより刺激されるので、コリン作動性受容体とも呼ばれる。アセチルコリン受容体は代謝調節型のムスカリン受容体とイオンチャンネル型のニコチン受容体(nAChR)の2つがある。ムスカリンがムスカリン受容体作動薬として、また、ニコチンがニコチン受容体作動薬として働くことからこの名前がついている。nAChRは17種類のサブユニットが発見されている。その中で中枢神経細胞での発現が最も多いのはα4β2 受容体で、ニコチン依存に関係の深い受容体である。非喫煙者ではnAChRは発現していないが、喫煙者ではnAChRが多く発現している。禁煙した場合やしばらくの間タバコを吸わずにいた場合は、ニコチンが欠乏した状態になるので、前頭葉側坐核において神経伝達物質(ドパミンなど)の放出が起こりにくくなる。またnAChRの数も少なくなっている(down regulationが起こっている)ため電気的な興奮が得られなくなる。そのため、いらつき、気分の沈み、眠くなる、タバコを吸いたいなどの離脱症状(ニコチンによる禁断症状)が出現する。この禁断症状がタバコを吸うことにより改善するため、「たばこを吸うと落ち着く」「タバコを吸うとイライラしない」と感じる。一方禁煙によりニコチン欠乏状態が2~4週間続くと、nAChRの数も徐々に増えて、神経伝達物質の放出能ももと通りになり、離脱症状が消失する。                                          -井埜利博著「喫煙病学の進歩」最新医学社より引用-

2013年09月03日
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