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2023-11-01

178.不安型愛着スタイル-他人の顔色に支配される人々

一般の方にもその存在と影響が広く知られるようになった「愛着障害」。中でも、身近な問題になっているのは、比較的軽度な愛着障害の「不安型愛着スタイル」である。「人に気を遣いすぎて、疲れてしまう」「自分のことを嫌われていないか、過度に気にしてしまう」「何事も過敏で傷つきやすい」ということで苦しんでいる方が多い。このような傾向を持つ人は、自分が一生懸命に気を遣い、サービスする心理の底で、自分のことを実際よりも低く、つまらない存在と見なしていて、自己評価や自己肯定感が低いことが多い。そのため、人から認められているとか、受け入れられているとか、愛されていることを確かめないと、自分の存在価値を保てない。少しでも悪い反応が返ってくると、自分の価値がなくなったように感じてしまい、落ち込みや不安に駆られたりしやすい。このようなタイプの人の根底には「不安型愛着スタイル」という特徴がある。不安型愛着スタイルの人は、さみしがり屋で、取り残されることを恐れている。人に気を遣って合わせてしまうのも、機嫌を損じないように常に他人の顔色をうかがい、ついサービスしてしまうのも、相手に悪く思われて、見捨てられることを恐れているからだ。自分の力だけでは頼りにならないので、誰かに頼りたいと思ってしまうのである。実際には、頼りになりそうな相手こそ、人生のつまずき石になることが多いのだけれど、それが分からない場合が多い。
孤独や孤立をそこまで恐れる背景には、何らかの見捨てられた体験や否定され続けた体験があって、その出来事から何年も何十年も経っていても、昔の体験がその人を支配している。見捨てられまいと、あなたの心遣いや愛に値しない人にまで、ついつい機嫌を取り、しがみついてしまうのである。その核心といえるのが、「不安型愛着スタイル」で、人の顔色や気持ちに対する敏感さや、傷つきやすさ、安心感・自己肯定感の乏しさを特徴とする。繊細で共感性に優れ、サービス精神旺盛で、優しく献身的な一面と共に、依存しやすかったり、攻撃を受けやすかったり、利用や搾取をされやすいという弱点を抱えている。気疲れや自己犠牲が限界を超えると、心身の不調を来たし、時には別人のように怒り狂う一面も持っている。最近は男性で15%、女性で20%近くの人が該当すると推測される、不安型愛着スタイルについての理解と知識なしには、職場でも家庭でも、良好な関係を維持することは至難の業である。それを知らずに、何気なく導火線に火をつけてしまい、大やけどを負うことが起こるかもしれない。
以下にその特性について説明する。
1.愛着不安が強い:愛着不安とは、距離が近づいた関係になったときに、相手に対して感じる不安のことである。親しさの程度は、ただ見知った関係の段階から、親密な家族や愛する存在まで幅広いが、相手の反応や自分に対する関心を気にして不安を感じるという点で共通している。愛着不安は、例えば、攻撃や危害を加えられるかもしれないという恐怖や警戒心とは異なり、相手の評価や自分に対する関心についての不安である。相手の顔色や気嫌、反応に敏感であるという点は、不安型愛着スタイルの最大の特徴と言って良い。
2.承認欲求や見捨てられ不安が強い:顔色や相手の反応に敏感であるということは、言い換えれば、相手に認められたい、気に入られたい、愛されたいという思いの反映でもある。こうした欲求を「承認欲求」というが、不安型愛着スタイルの人では、承認欲求がとても強いのだ。認められたいので、相手の期待することを先読みして、相手の意向を忖度して、言われるよりも先に自分からそれに応えようとする。子どもの頃は、「よい子」や「優等生」として頑張ろうとして、勉強に励んだり、家事や親の手伝いや兄弟の世話を進んで行う。親の愚痴や泣き言を聞き、親を慰めたり、助言したりするケースもある。本来は親の役割であることを、子どもの方が果たすことで、親を支えようとしている。親を喜ばせたいという気持ちが強く、逆に親が不機嫌だったり、悲しそうにしていると、がっくり落ち込んだり、気持ちを掻きむしられたり、やり場のない怒りを感じたりする。このような傾向は親以外の存在に対しても強く働き、自分のことを置いておいても、人の相談に乗ったり、世話を焼いたり、尽くしてしまいがちである。大人になる頃には、このような傾向はその人の人格の一部のように成っている。「いい人」と思われたいという気持ちがどこかにあり、相手から頼られるとむげに断ることができない。つい、いい顔を見せてしまうのである。強引で自分勝手な上司や同僚あるいは夫、図々しい友人や恋人に対してだけでなく、出会ったばかりの素性の分からない相手や、怪しい新興宗教の勧誘などでさえ、悪く思われることを恐れて、相手を傷つけないように配慮して、相手に合わせるようなことを言ってしまう。拒否や反撃が必要な場面でも、相手に嫌われまいと、拒否の態度が取れず、いつの間にか相手のペースに巻き込まれ、大変な迷惑や損害を被ってしまうこともある。
3.心理的な支配を受けやすい:愛着不安は、相手に見捨てられるのではないかという不安でもある。ありのままの自分をさらけ出し、自分の考えを主張することに、恐れや不安がある。相手を傷つけたり、相手に悪く思われてしまうことが心配で、自分の気持ちや考えをはっきり言うことを遠慮してしまう。そのため、愛着不安が強いと、態度が曖昧になりやすい。はっきりノーということができず、煮え切らない言葉で、どっちつかずの返事をしてしまう。また、こちらを余り評価しない、点数の辛い相手に対したとき、自分を評価してくれないことに不安を刺激され、何とか相手に自分を評価してもらいたい、見捨てられないように相手にしがみつきたいという衝動に掻き立てられる。遠慮無くズケズケと自分の欠点を指摘したり、言いたいことを言ってくる点数の辛い相手に対して、心理的な支配を受けやすいのは、愛着障害が刺激されることで、相手に取り入ろうとするスイッチが入ってしまうためである。
4.寂しがり屋で一人が苦手:自分を自分で支えられないので、過剰なまでに愛着対象を求める。愛着対象とは依存対象でもあり、自分を守り、支え、かくまってくれる存在である。幼い頃は、母親がその役割を担うのだが、それが何らかの理由で上手く機能せず、愛着対象への欲求が過剰に高まってしまっている状態が続いているといえる。自分を支えてくれる人に頼りたいという気持ち、つまり依存要求が強いということは、言い方を変えれば、自分で自分を支えられないということである。一人では生きていけないという思い込みがある。それが、心理面や対人関係の面に表れると、寂しがり屋で、孤独が苦手という特性となりやすい。 
5.自己肯定感が低く自分が嫌い:他人の顔色ばかり気にして、人に過剰に尽くしてしまう傾向と表裏一体だともいえるが、不安型愛着スタイルの人は、自己肯定感が低く、自分のことが嫌いである。周囲から見れば、とても魅力的で優れたところも沢山あるはずなのだが、本人は自分が全部ダメなように思っている。一見プライドが高く、自信ありげに見えるときも、実は虚勢でしかなく、一歩近づいた関係になると、たちまちそのプライドは消し飛び、自分など誰にも愛される価値がないと思い込み、相手のさげすみや嫌気に怯える別の姿があらわになる。自己肯定感の低さは、周りの人をすぐに「すごい」と思い、実際以上に理想化してしまう傾向にもつながる。
6.求めすぎて反応が極端になる:両極端な認知や反応に陥りやすいことも特徴である。この両極端な認知や行動パターンは、母親との関係に由来していることが多く、母親が不安型愛着スタイルを示す場合、子どもも同じ傾向を示しやすくなる。「大好き」「最高」という最高評価と、「大嫌い」「最悪」という最低評価が、短いスパンで、時には一瞬のうちにひっくり返ることもある。思い通りになる存在は「大好き」なのだが、思い通りにならない面を見せられた途端に、「大嫌い」に変わってしまうのだ。この特性は、パートナーとの関係や子育てにおいて、しばしば破壊的な作用を及ぼし、周囲の人からは、心底からの信頼を失っていくことになる。また周囲の人から認められたくて、何事も必要以上に頑張ってしまうような完璧主義の傾向が強い。いわゆるゼロか100か、の思考パターンに特徴がある。

-岡田尊司著「不安型愛着スタイル」より抜粋引用-

2023年11月01日
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