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2022-03-31

159.支援者のストレスやトラウマとそのケアについて、No.2、

   前回は、支援者のストレスやトラウマの症状や起こり方について述べたが、今回はそのケアについて述べる。
二次的外傷性ストレスや惨事ストレスのケアや対策は、個人でできるセルフケア、対人的なケア、組織的対策と三つに分類される。パールマンらの研究で、外傷を扱う臨床家に、仕事と均衡を取るために行った活動と、その活動が役立ったかという評価結果報告がある。「旅行、休暇、趣味、映画」「エクササイズ」といった個人で行うケアと並んで、「同僚とケースについて検討した」「ワークショップに参加した」などの専門的な他者との交流(対人的ケア)が高く評価されている。ただし、広域災害で被災すると、この種の活動は行いにくい。そうした場合でも、休憩、休養、休暇などは意識的に行いたい。すでに述べたように、覚醒症状が起こると、「休めない」心理状態になり、心身ともに疲れているのに、使命感(実際には焦燥感)だけで活動を続けてしまうためである。長い時間の睡眠が取れなくても、短い休憩時間に体を横にするだけでも、心身の疲労を和らげることができる。リラクセーションも効果的なストレス解消法である。、ヨガ、瞑想、動作法、呼吸法、マインドフルネスなど様々なリラクセーション技法が開発されている。身近な所では入浴がある。温めの風呂に8分程度浸かると、無理なくリラックスできる。
惨事ストレスのセルフケアとして、幾つかの発想の転換を勧めることがある。
第1には、「無理に忘れようとしない」ことである。外傷的出来事の記憶は消すことができない。忘れよう忘れようと努めると、かえって意識が集中し、その出来事を思い出してしまう。つまり無理に忘れようとしない事を勧める。第2には自分に果たした無理なルールを緩めることである。被災地で活動する支援者は、「人から助けを求められたら、必ず助けなくてはいけない」とか、「外から来た人が頑張っているのに、地元の自分が休んではいけない」というように、無理なルールを自分に果たしていることが多い。心理学用語で言うと、イラショナル・ビリーフ(非合理的信念)にとらわれている。そこで、自分の「無理なルール」に気づき、それを緩めることが支援活動の継続に必要となる。第3には、笑うことと泣くことである。外傷性ストレスが生じると、感情が麻痺し、喜怒哀楽を感じなくなることがある。感情の振れ幅が狭くなる。こうした感情状態を和らげるためには、笑うことと泣くことが役立つ。他にも自分の限界を知ることや、被支援者に対する過剰な共感を自覚すること等が勧められる。
二次的外傷性ストレスの解消には、専門家との会話が推奨されている。そのケアには、さらに専門的な指導や情報交換も推奨される。支援者が所属する組織のカンファランスや個別のスーパービジョンなどである。
惨事ストレスの場合にも、症状や反応が重篤な場合には、心理臨床家や精神科医などによる専門的な治療が求められる。それ程重篤でない場合には、訓練された同職者によるピア・サポートも有効である。さらに家族や友人との会話もストレスケアになる。ただし、災害救助者の多くが自身のストレスを家族に見せない傾向がある。「家族に不安を与えたくない、無駄な心配をかけたくない」という気持ちから、家族を遠ざけてしまうことが多いため、注意を要する。惨事ストレス対策として、家族との交流を促す様な啓発も必要とされる。
松井豊「支援者のストレスやトラウマとそのケア」こころの科学、No.222/3-2022より引用

2022年03月31日
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