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2010-10-02

15.一般人口の中の、うつ病長期予後、およびSSRIなどの依存性について、

 オランダで行われた研究結果(2002)を参考にしてみます。オランダ全土の、7000人以上を対象とした大規模な研究です。ジェネラルフィジシャン(家庭医)を受診した人で、回復までの期間の、中央値は3ヶ月、つまり、50%は3ヶ月以内に回復し、76%は12ヶ月以内に回復している。2年を超えても回復しない患者は20%であった。遷延するケースの予測因子として、重傷度と、前回エピソードの持続、反復エピソード、サポートの欠如、慢性身体疾患などがあげられている。アメリカでも同様の研究(2008)が行われており、ほぼ似た結果が出ている。その中で、女性はうつ病の発症リスクが高いばかりでなく、エピソードの持続が長く、再発のリスクも高い傾向が示されたものの、しかし回復には性差が認められなかった。初回エピソードの人の50%は回復し、その後全く再発は認められなかった。再発率は35%と、精神科専門医を受診する症例に比べて比較的予後は良好であり、うつ病の長期予後に関する悲観的な見方を修正する必要がありそうだ。また、薬剤の依存性については、抗不安薬や睡眠薬などは依存性があるとして有名であるが、SSRIなどの新規抗うつ薬への依存性が議論になっている。精神薬理学の専門家や指導的な立場の専門医による依存性の否定にもかかわらず、ユーザーサイトには、パロキセチンを代表とするSSRIの離脱の困難さや、ある種のアディクションの可能性を指摘する情報があふれていることに問題の深刻さがある。アメリカの国立薬物乱用研究所は、2005年の研究報告の中で、処方薬乱用の定義は確立していないが、「医学目的以外、すなわち病気の治療目的以外に処方された中枢作用薬を不適切に患者が用いること」を依存としてとらえており、オピオイド系の鎮痛薬や、中枢抑制作用を有する抗不安薬や睡眠薬、中枢刺激薬などが挙げられており、この中に抗うつ薬は含まれてはいない。しかし、Kadison(2005)は大学における中枢刺激薬と抗うつ薬の使用について、アメリカの学生におけるこれら薬物の不適切な使用について警告をしている。さて、これまでの依存の定義とは異なる、身体依存タイプ3という概念を提唱しているのは、Healy,D.である。治療薬への依存と薬物によるストレス症候群という概念である。薬が脳にストレッサーとして作用し、この種のストレスに脆弱な人の場合、脳内の何らかの系に不調が起きて、治療が中断されても元の状態には戻らないというものである。治療薬への依存、すなわちストレス症候群という考え方は従来のアディクションや依存性の考え方とは異なるが、これが最もはっきりするのは薬物の離脱時期である。SSRI、特にパロキセチンやSNRI、ベンラファキシンは服薬の中断や急激な減量により、6割近い患者で顕著な中断症候群を生じることが知られており、これらを含めて考えると、身体依存タイプ3と見なしてよいかもしれない。SSRIなどの抗うつ薬で依存は起こらないと断言することは出来ないと考えるのが妥当ではないかと思われる。
-田島治先生「うつ病の薬物療法と抗うつ薬アディクション」精神科治療学2010.5.より要約引用した

2010年10月02日
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