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2014-10-04

69.マインドフルネス-脆弱性理解の基本

いくつかの研究の結果、健康な人々も実験的な誘導によって軽いうつ気分になり、記憶のネガティブバイアスが生じることが分かった。今までに経験した楽しい出来事は思い出しづらく、ネガティブな出来事が思い出しやすくなっていた。このようなバイアスは臨床上の「うつ」にも認められることは分かっていたが、そのバイアスがなぜ生じるのかについては分からないままだった。実験結果は、うつが記憶に与えるネガティブバイアスは、決してネガティブな出来事の量の多さが原因ではないことを証明していた。ネガティブな出来事は確かに起こるが、うつ病者はその悲劇に加え、人生のネガティブな側面により注目し、どんなポジティブな側面からも目をそらしやすいという、気分によって誘導されたバイアスにも対処しなければならないのである。 
この結果は脆弱性に対する別の見方を示唆した。うつから回復した者とうつ未経験者との重要な違いは、気分が落ち込んだ時に、何が頭をよぎるかである。うつ病の時に、患者は気分の落ち込みと、ネガティブな思考の両方を経験している。ということは、もしうつの最中に、両者の間に学習性連合が起こっていたとしたらどうなるだろうか。学習性連合の形成後は、一方(気分)が生じただけで他方(思考パターンの変化)がもたらされることになる。以前うつを経験した者にとっては、毎日の気分の落ち込みは普通のレベルのものであっても、深刻な結果を招く可能性がある。
ティースデール(Teasdale, J.D.)はこれを「抑うつ的処理活性仮説」(differential activation hypothesis)と名付けた。これは現在の気分の落ち込みが、以前のそれと結びついた思考パターンを再活性しやすくなる、という考えである。思考パターンは人によって異なり、それぞれの過去の経験に依存しているだろう。彼は、この思考パターンへの入りやすさにおける個人差が、うつの再発を理解する助けになると説いた。ほとんどの人は時々生じる気分の落ち込みを無視できるが、うつ経験者はわずかな気分の低下でも破壊的なほどに思考パターンを変化させるかもしれない。これらの思考パターンは多くの場合「私には価値がない」「私はおろかである」といった全般的で否定的な自己評価を含んでいるだろう。
これを実証する実験が行われた。実験では、うつ病から回復した人を気分誘導の有無で分けて査定した。多くの研究結果は、実験的にもたらされた気分の落ち込みが同等であった場合でさえ、うつ気分はうつの既往歴をもつ人に、より大きな影響を与えていることが分かった。うつ病経験者には過度の認知バイアスが生じていたのである。 このように、大うつ病の既往を持つ者においては、軽度の落ち込みはより強くより持続的なものへと発展し、その後の大うつ病の発症リスクを高めることになる。

  
Zindel V.Segal,J.Mark G.Williums,John Teasdale,:Mindfulness-based cognitive therapy for depression.堀川房子訳「マインドフルネス-認知療法」北大路書房より抜粋引用

2014年10月04日
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