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2016-03-31

87.妊娠出産に係わる第二世代の向精神薬の安全性について、

1990年中頃よりUSAでは第二世代の向抗精神薬が、双極性障害・統合失調症・単極性うつ病・あるいは不安障害などの疾患に使用されている。しかし、妊娠出産に係わる安全性について、現在までの所はっきりと示されていない。今回はマサチューセッツ総合病院で行われた過去20年間に渡る研究の結果を以下に示す。対象としたのは、18-45歳までの妊婦303名と、134名の対照群妊婦とした。妊娠初期3ヶ月間に精神薬投与受けた人で、214名の出産があり、3名の奇形が報告された。また、対照群では89名の出産のうち、1名の奇形出現があった。絶対的な奇形リスクは、投与群1.4%に対して、対照群1.1%であった。オッズ比は1.25である。詳しく述べると、303名の内訳は、64.4%が大学卒業し、77.9%は結婚、91.1%が白人女性で、平均年齢32.3歳である。初産婦は71.2%、同時期に併用していた物質として、シガレット19.8%、アルコール23.9%、違法薬物7.0%、出生前ビタミン剤71.3%である。また、精神疾患の割合では、双極性感情障害58.4%、統合失調症1.7%、うつ病16.5%、不安障害6.9%、産褥期精神病歴のある人37.8%である。なお、この時使用された精神科薬として、第一世代向精神薬2.6%、SSRI.30.0%、SNRI.6.6%、三環系抗うつ薬2.6%、非定型抗うつ薬8.3%、リチウム7.9%、抗けいれん薬34.0%、抗不安薬19.8%、鎮静剤5.3%、刺激剤2.6%、多剤併用68.7%であった。
 この結果、危険率オッズ比の高い順に、シガレット1.48、抗けいれん薬1.38、鎮静剤1.35、うつ病の診断1.32、出生前ビタミン剤1.3、違法薬物1.3、白人1.3、SNRI.1.29、刺激剤1.28、第一世代向精神薬1.28、三環系抗うつ薬1.28、第二世代向精神薬1.25、抗不安薬1.24、SSRI.1.22、妊娠年齢1.13、リチウム1.13、不安障害の診断1.13、アルコール1.07、双極性感情障害の診断1.03、という順序であった。
以上をまとめると、シガレットおよび抗けいれん薬使用を除けば、オッズ比からは、ほとんどゼロに近い値であり、1.25というオッズ比はバイアスが掛かっているかもしれず、真の値としては1に近いと考えられる。
また、このデータからは、妊娠初期3ヶ月の第二世代向精神薬使用について、実質的に催奇形性が増加するということはないといえる。それゆえ、しばしば実際の臨床現場で認められる女性精神疾患患者の妊娠期間中の急な治療中断には疑問がある。
しかし、第二世代向精神薬の治療を中止するか、維持するかは大変複雑な問題であり、医師、患者ともに薬物治療の潜在的なリスクと、精神疾患を治療しない場合のリスクとのバランスを考慮する必要がある。
更なるより大規模で、かつ厳密なデータの集積が求められる。

Lee S.Cohen,Adele C.Viguera,et al,:Reproductive safety of Second-generation antipsychotics.
Am J Psychiatry173.3,March 2016 より抜粋引用した

2016年03月31日
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