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2019-08-30

128.医師の本音-「なぜか**病が消えた」というトンデモ本が出版されるのか?

  先日、大リーガーのダルビッシュ選手のツイッターで、炎上騒ぎがあった。どうやら根拠の弱い健康本を勧めたらしい。その後本人は「いわゆるトンデモ本が世の中に沢山あるが、なぜそのような本を売っていいのだろう。根絶させれば間違った道に行くことが減るはずだ。誰か詳しいことを教えてください」というものだ。「トンデモ」とは、トンデモ健康本のこと。トンデモなく、無根拠ででたらめな物を指す。健康について、ある情報が正しいかどうかを判断する能力を「ヘルスリテラシー」と呼ぶ。一般の人がこれを培うことは簡単ではない。実は医師にとっても簡単ではない。多くの新聞やTVコマーシャルで出てくるのは「長生きしたければ**しなさい」「**エキスお試しください」「がんを治した人たちがやっていた**」「笑顔の**お試し」「嘘のように効く**健康法」などなど枚挙に暇が無いくらい。残念なのはそれを医師や医学博士、大学教授が書いたり、お勧めしている場合がある。しかし、医師や大学教授であっても、「その情報がどれだけ確からしいかを判断する能力」を十分に持っているかは全く別の問題である。著者が医療の専門家でない場合もある。専門家でなくても執筆して悪くはないが、信頼性に欠ける印象が強い。医療の世界では、「ある薬が効いたかどうか」を判断するためには、ほぼ同じような症状の200名の患者を集めて、2組に分けて、実薬を使う組100名、そっくりなプラセボ薬使用100名をランダムに選ぶ。研究者はその組み合わせには関与せず、結果どの人に薬を使ったのか分からない人が判断する。これは、「二重盲検ランダム化試験」と呼ばれ、「いかにズルをしないで、研究者の主観など結果を歪ませるものが入らない」状態で薬の効果、つまり真実を見ることができるかに主眼が置かれる。これをエビデンス(証拠・根拠)といい、このような研究の方法を研究開始前から全世界に公表する。このような幾つもの研究の成果が出たところで、全部をひっくるめて再検討し、本当に効果があるかどうか考える。非常に厳しい客観性の中で、しかも慎重に調べている。
 いわゆる健康本は出版社の編集者が企画を考えて、ある筆者に提案し、社内の会議に通れば、後は編集者とある筆者の2人で本を作る。本作りにはこのような密室性があり、正しさ、面白さ、わかりやすさの全てがこの2人の頭脳が天井となり、限界が生じる。実は怪しい本が出る一番の理由は「過激なタイトルの健康本がよく売れる」からに他ならない。週刊誌も同様に、医療・健康情報は「タイトルも内容も、過激さに重きを置く」と感じる。たとえば「衝撃の新事実!この薬を飲み続けると危険」など、いかにも読者の気を引く様なタイトルをつける。当たり前だが、週刊誌の記事には公的な制約はない。あくまで出版社の利益優先を目指して書く。ある病気にかかった場合、最も信頼できる情報はどこか。現段階での最良の選択肢は、「病院を受診することに尽きる」と考える。病院で医師やスタッフから話を聞くことが、現在最も信頼できる一番有用なことではないか。本や雑誌、ネットで、自分の病気について調べられるが、一人一人の病状は異なり、一般論では言えない。 また、情報を集める時に大切なことは、「最新=正しい」とは限らない点である。また、騙されない5つのコツとして、1)「**免疫クリニック」「最新**免疫療法」等の謳い文句、2)調査方法などの詳細が記載されていない「**%の患者に有効」、3)保険外の高額医療・厚労省の指定の無い自称「先進医療」、4)患者の体験談、5)「奇跡の**」「死の淵から生還」などの仰々しい表現、等の広告を見た場合には、怪しいと疑ってかかることをお勧めする。
-中山裕次郎著「がん外科医の本音」より引用-

2019年08月30日
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