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2019-09-29

129.飲酒について-体によいか悪いか?

「酒は命を削るカンナ」といって、大量のお酒を飲むのが体に悪いことは皆知っている。大量飲酒は肝臓に悪いだけではなく、各臓器のがん、膵炎、心臓病、脳血管障害、認知症といった様々な疾患のリスクを高める。WHOによれば、酒が原因となる病気や障害は200以上もあり、全世界で年間330万人が亡くなっている。これは男性の死亡の7.6%、女性では4%に相当する。普段の診療の中で、アルコール摂取がリスクとなる患者さんには「お酒を減らしましょう」と伝えるが、中には「お酒の量は減っています。たくさん買い置きしていても、どんどん減っていますから」という方までいる。一方で、「酒は百薬の長」ともいわれ、少量ならかえって体によいという話も聞く。「Jカーブ効果」といって、横軸に酒量、縦軸に死亡率をプロットすると、大量飲酒では死亡率が高く、飲酒量が下がると死亡率は下がるが、飲酒量が全くのゼロだと逆に死亡率が上がるという報告もある。少量飲酒が体によいという理屈はいくつかあり、アルコールは善玉コレステロールを増やす。また、血小板機能を抑制するため、動脈硬化や血栓形成を予防する働きがあると考えられる。
しかし最近は、少量の飲酒でも健康には悪影響があるという報告が多くなっている。2018年に行われた195の国と地域を対象とした研究によれば、「健康上害を最小にするアルコール量はゼロ」という結果であった。つまり、Jカーブ効果は観察されなかった。虚血性心疾患だけに注目すると、Jカーブ効果は期待できるが、特にがんに対するリスクが高まってJカーブ効果は相殺された。がんは、少量の飲酒からリスクが単調に増加する。アルコール自体とその代謝物はDNAを傷つける。つまりがんに罹りやすくなる。
「休肝日、1週間に数日間酒を飲まない日を設ければ大丈夫」という意見がある。大量飲酒(週に純アルコール300g以上)においては、同じ飲酒量であれば休肝日の少ない人の方が死亡率が高いことが示された。つまり、休肝日を意識することで、全体的な飲酒量が減るならば意味がある。この論文では、休肝日は日本の社会的信念だと表現されている。
「水を飲みながら酒を飲むとよい」という説もある。アルコールは利尿作用があるため、飲酒時に脱水に陥りやすく、水分を摂取するのはよいことであるが、水分を摂取したからといって、酒の害がなくなるわけではない。
「酒の種類によってはアミノ酸やポリフェノールを含んでいて、健康によい影響を与える」とも聞くが、酒に含まれる少量の成分を、体に効果があるほど摂取しようとすれば、大量に飲むことになり、アルコールの害が無視できなくなる。健康を気にして酒の種類を選ぶのではなく、楽しくおいしく飲むために選ぶ方がよい。
「ウコンが二日酔いの予防や治療に有効」というのもよく聞く。調べた範囲で、明確なエビデンスは無かった。もしも食品や栄養素がアルコール分解を助けることがあったとしても、その効果は非常に微々たるものと考える。
 さて、次に酒を絶対に飲んではいけない場合について述べる。
(重い肝臓病の方)すべての肝臓病ではアルコールが病状を悪化させる。自己免疫あるいは肝炎ウィルスというアルコール以外の原因による肝臓病でもアルコールは病状の悪化を招く。禁酒するべきと考えてください。
(血糖コントロールの悪い糖尿病の方)アルコールがインスリンの効きを悪くして血糖が上昇したり、逆に低血糖が起こることもある。しっかり食事療法を守ることが大切。
(膵臓の病気の方)急性膵炎や慢性膵炎などの場合も、禁酒です。少量の飲酒でも膵炎症状-激しい腹痛-を起こす可能性があります。また、慢性膵炎は糖尿病の合併も多くその点からも注意が必要です。
(妊娠中、あるいは妊娠の可能性のある方)も禁酒です。妊娠中の飲酒は、流産や死産、胎児の先天性異常のリスクを高める。アルコールにより生じる胎児異常を「胎児性アルコール症候群」というが、妊婦に安全な飲酒量はない。ただし、妊娠に気づかずに飲んでいたとか、お祝いの席で1杯だけ飲んだということで、それを大げさに心配する必要はありません。
名取宏著-医師が教える「最善の健康法」-より引用した

2019年09月29日
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