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2019-04-01

123.悲嘆反応-遷延性うつ病について、

まず悲嘆反応とは、最愛の人との死別などがきっかけで、大きなショックを受けて、抑うつ、不安、心配、絶望、後悔、過活動、引きこもり等の諸症状が認められる場合を言う。多くは1ヶ月以内で、落ち着くことが多いが、6ヶ月以上持続しており、強度が強い場合には、「遷延性うつ病」という診断で、治療の対象となる。辛くて心が張り裂けそうになる。思い切って周囲に死別の辛さを打ち明けても、「あなたがんばらないとだめ」「なんで病気に気がつかなかったの」などといわれ、逆に気持ちが辛くなる。どうしたらよいのだろう。こんな気持ちで途方に暮れてしまう方が時々いらっしゃる。現状では、遺族に対する社会の支援は、病院を含めて不十分である。死別が心と身体に及ぼす影響については以下のようなデータがある。心に対する影響では、死別後はうつ病になりやすいことが知られている。うつ病は、通常人口の3~7%に出現するが、遺族の場合、死別後7ヶ月で23%、13ヶ月でも15%に認められる。また、死別経験は高齢者におけるうつ病発症の最大要因であることが知られている。また、身体への影響は、55歳以上の男性で配偶者を失うと、配偶者のいる人に比べて死別後半年間で、死亡率が40%近く上昇し、死因の2/3は心疾患であることが判明している。特に男性の死亡率の高いことが特徴である。行動面では、アルコール、タバコの消費量の増えることが知られている。これらは慢性疾患の誘因となる。
死別により悲しむ遺族に対して、どのように対応したら良いか。まず思いつくことは、言葉をかけて何とか遺族の心が落ち着いて欲しいと願うはずです。ところが、かけた言葉で傷ついてしまうこともある。「そうは言っても善意だから悪いものはそう多くはないはず」と思うかもしれない。しかし、かけた言葉の多くが有害であることが知られている。では、「かけてはいけない」言葉には何があるのかを知っておくと良い。
「がんばってね」:日常的に使われる言葉であるが、目的が分からない。愛する人を失って悲嘆に暮れている人に、これ以上何を頑張れというのか?また、この言葉には発言した本人が手伝うという意味が含まれていない。「がんばってね」を訳すと、「あなたはやるべきだ、私は手伝わないけど」という意味になってしまう。言われた方はたまったものではない。
「あなたがしっかりしないとだめ」:悲しみに暮れる遺族に対して励ましのつもりなのだろうが、しかし愛する人を失って身も心もどん底の人に「しっかりしろ」等と言っても何の役にも立たないばかりか、逆に落ち込む原因をつくるだけである。この言葉にも発言した本人が手伝うという意味が含まれてない。
「元気?」:この質問は元気か元気でないか二者択一の答えを求めており、それ以上の発展性がないため、「閉じた質問」と呼ばれている。少し考えると、これは自分の興味や関心を満たすための質問であり援助ではないということに気がつく。
他にも「落ち着いた?」「気持ちの整理つきました?」「元気そうね」「あなたより大変な人はいるよ」「あなたは子供が大きいのだからまだまし」 「あなたの気持ちは分かります」等、幾つかの言葉が上がってくる。最後の「あなたの気持ちは分かります」の何がダメなのか?愛する人との死別は「私」と「あなた」の二人称の関係。「気持ちは分かります」という人は、亡くなった人との三人称の関係。悲しみは遺族本人が一番感じている。そんな中「私には分かる」といわれても、何の慰めにもならない。発言した人の自己満足にすぎない。
大西秀樹著「遺族外来-大切な人を失っても」より、抜粋引用

2019年04月01日
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