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2020-11-05

142.リモートワークの弱点について

今年春、新卒で人材関連のベンチャー企業に入社した女性(23)を異変が襲ったのは7月初旬のことだ。目が覚めても、ベッドから起き上がれない。体が鉛のように硬く、動かない。入社してから、ずっと在宅勤務。日々つらい、苦しいと思い続け、心身が突然限界を迎えた。同居していた恋人に助けを求め、心療内科に駆け込んだ。ついた診断は適応障害。医師から「今の環境から離れないと治らない。すぐに会社を辞めた方がよい」といわれた。女性は7月末で退社した。「右も左もわからない中で、リモートワークはすごく辛かった。発言できるタイミングがわからないし、文字でいただく指摘もきつかった」新入社員は3名。しかし、ほかの2人は在学中からインターンでほぼ同じ業務に従事しており、知識・経験に大きな差があった。研修中も2人が当たり前のように理解できることが、中々わからなかった。「初めのうちはわからないといえたのですが、私だけのために時間をとってもらうことが申し訳なくなって・・・」 研修終了後に復習し、それでもわからないところを翌日質問するようにした。寝る間も惜しんで勉強を続けた。3週間の研修が終わり、正式に業務が始まっても状況は変わらなかった。1人だけ仕事がわからない。質問しようにも、相手の様子が見えず、連絡のタイミングをつかめない。「実際に出社していたら、横にいる先輩に”今、1分ください”といって質問できたと思う。リモートだから、”わからない、でも聞けない”が続き、やりにくかったです」。先輩社員からの指摘やフィードバックもきつく感じた。日々提出する日報には、言葉の選び方などに対する指摘が書き込まれた。上司とのリモート面談でも、「吸収が遅い」「努力が感じられない」「将来のビジョンがおかしい」など辛辣な言葉が画面越しに突き刺さってくる。あるとき勇気を出して先輩に相談したところ、「受け取り方が曲がっている」と返された。日々自分のだめなところを突きつけられる。「自分は最低だ」と感じるようになった。必死だった。泣きながら仕事をして、夜遅くまで、そして早朝から勉強を続けた。すっと胸が苦しかった。そしてあの日を迎えた。
それまでと周囲の環境が激変する新入社員は、元々心身に不調を来しやすいと言われる。だが、今年はその傾向がより顕著である。ある専門医は「夏以降、不調を訴える新入社員が例年より明らかに増えている。不安が強い、落ち込む、気力が無くなる、イライラするなど、うつ病一歩手前、”プレうつ”とでもいうべき適応障害のようなケースが多い」と述べる。実感として、リモートワークの日数が多いほど不調を来しやすいと感じる。この原因として、「精神的な孤立感」「達成感がない」「将来に対する不安」の3要因があげられる。リモートでは、わからないことを先輩に聞きづらいだけでなく、同期と愚痴をこぼすことも出来ない。仕事の成果も見えない。在宅は、やってもやっても達成感がなく、まじめな人ほどやり過ぎてしまう。安心できず、将来への不安が強くなり、心身に異常を来すという。また、不調に気づけないのもリモートワークの特徴である。自宅で働くため表面上自由に感じるが、狭い部屋で体をあまり動かさず働くと、脳がリフレッシュする機会がなく、生活リズムも崩れやすい。冒頭の女性も、起き上がれなくなるその日まで、自分がそれ程までに追い込まれているとは感じなかったという。「私は大学で臨床心理学を専攻してきた。感情のセルフコントロールは得意な方だと思っていた。それでもこれほどに追い詰められていることに気づけなかった。3ヶ月たった今でも当時のことを思い出すと、過呼吸が出たり、涙が出てきてしまうこともある」と述べる。
-アエラ「リモートワークの弱点改善マニュアル」No.52、11.9、2020より引用-

2020年11月05日
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