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2020-10-01

141.薬の用量・用法を守ることについて,

高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、あるいは、統合失調症、パニック障害、てんかんという病気は、目立った症状が無くても治療が必要だとされている。考えてみたら不思議なことだが、血圧、血糖、血中脂質値がいくつであろうと、苦しかったり亡くなったりしなければ、治療の必要は感じない。幻聴や妄想、息苦しさや動悸、けいれん発作なども、何もなければ、治療の必要性を感じないのも当然である。「いやいや、血圧や血糖値が高かったら、心筋梗塞や脳出血になりやすいでしょう。またパニック発作を起こしたときに、ドキドキして息苦しくて、死ぬほどの恐怖感が出てくるのは本当に辛いから。またてんかん発作が起きたときに、事故につながることもあるから、治療するのでは」と考えたあなた、大正解です。
 高血圧、糖尿病、脂質異常症は軽症であれば、まずは食事療法や運動療法などで生活習慣を見直す。それでも改善しなければ薬を使うことになる。いずれの病気に対する薬も、病気そのものを治すのではなく、コントロールするだけの対症療法の薬である。これらの病気は自覚症状に乏しいためか、しばしば薬を飲み忘れてしまうことが多い。さらには自己判断で薬の服薬を中断する患者さんもいる。飲み忘れた昨日の分を合わせて倍量を飲むという人、あるいは薬の量を自分で調節する患者さんもいる。「昨日は血圧が低めだったので降圧薬を一種類減らしてのみ、今日は高かったので昨日の分まで飲む」という患者さんである。自分の病気を、自分の薬を、自分で管理したいというのは自然な気持ちである。しかし、医師から特別な指示がある場合を除いて、何の薬だとしても自己流で薬の量の調節は行わぬことである。
 ではどうして自己流で薬の量の調節をしてはいけないのか。たとえば高血圧を治療する目的は、心筋梗塞や脳出血などの将来の合併症を予防することである。高血圧は徐々に動脈硬化を進行させるが、余程の高血圧でも無い限り、数年から数十年という長期スパンの話で、目先の数字には相対的には重要ではない。血圧が一時的に高いからと、指示より多く飲んだり、逆に血圧が低いからと飲むのをやめたりしても、あまり意味は無い。数字が多少高かったり低かったりしても指示通りに内服して、血圧を記録して、次の受診の時に主治医に相談することをお勧めする。同じく、てんかん等の薬も、発作がないからといって勝手にやめてしまうと、いつ発作を起こすかは全くわからない。たまたま運転中などに発作を起こしてしまうと、意識を失うために、大事故・大惨事につながる恐れがあり、決して自己判断で服薬を中止してはいけない。もちろん、統合失調症の薬なども、勝手に中断すると、かなりの確率で再発・再燃を起こしてくるので、独断でやめることは絶対によろしくない。
 薬をやめたい時には必ず主治医に相談してほしい。病状によっては徐々に減量できるかもしれないし、あるいは場合により中止出来るかもしれない。いずれにせよ自己判断で薬の中止はおすすめしない。慢性の病気だけでなく、急性の病気でも自己流の薬の飲み方をする患者さんがいる。たとえば、細菌感染症に対して処方された抗菌薬を、全部飲まずにとっておき、次に熱が出たときに飲む方がいる。これは2つの理由で良くない。1つは中途半端に内服することで初めの細菌感染症が治りきらず、抗菌薬が効きにくい耐性菌が生じる恐れがある。もう1つは熱が出たからといって抗菌薬が効く病気とは限らないことである。抗菌薬が処方された場合、途中で症状が改善しても飲み切るように指示されていることが多いはずである。お薬の用法・用量は必ず守って服用してください

これはあなたの人生を少しでも平穏に、健康に生きていくための、とても大切なことと考えます。
-名取宏「医師が教える最善の健康法」より引用、一部加筆した-

2020年10月01日
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