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2022-03-03

158.支援者のストレスやトラウマとそのケアについて、No.1、

  支援者のストレスやトラウマ(外傷)のケアについて、ここでは支援者が被支援者の外傷経験に接したときや、大事故や大災害に遭遇したり、救援活動を行った場合に絞って解説を行う。被支援者の外傷経験に触れたときに生じるストレスは、二次的外傷性ストレスと呼ばれ、外傷経験をもつクライエントのセラピーに従事する臨床家が、自身はそのような体験をしたことがないのに、クライエントと同様の外傷性のストレス反応を示す現象を指す。外傷性逆転移、代理受傷、共感疲労(共感的疲弊)などの概念とも共通性のある現象である。
惨事ストレスとは、通常消防職員や警察官が職務上被る外傷性ストレスと理解されるが、実は事故や災害時に被災者や被害者を支援する、医師・看護師・教師・報道関係者、またボランティアなども含まれる。これらの職業の人々も、自身が被災したり被災地に救援に行ったりすると、外傷性のストレス反応を示すことが多くの研究で明らかとなっている。たとえば、東日本大震災時のリスク率は(IESR-J:心的外傷後ストレス障害尺度を使用)、報道関係者12~22%、看護者34~38%、消防5~15%、南関東住民13~14%、公務員(宮城県)21~26%、であり、被災地で活動した看護職員のリスク率が極めて高いことが分かる。
どのようなストレス反応を生じるのか。第1にはストレス性の身体症状である。二次的外傷性ストレスでは、共感による心身の疲労が認められる。惨事ストレスでは、睡眠障害(入眠困難など)や消化器系の障害(嘔吐、下痢、便秘、胃痛など)、高血圧、筋肉痛など多様な心身症状が生じることがある。第2には急性ストレス症状や心的外傷後ストレス症状である。外傷経験中の記憶が飛んでしまったり、感情が麻痺する解離症状、外傷的な出来事が再び起きているように感じる再体験症状、外傷的な出来事を思い出させる様々な刺激を避けようとする回避症状、心理的緊張が続き怒りや不安などが生じやすくなる覚醒症状等が現れる。広域災害に被災した場合には、怒りが職場や家庭の中で発生しやすい。職場内の人間関係が悪化したり、仲の良かった同僚と些細なことで怒鳴り合ったりすることもある。災害救援者や支援者には、覚醒症状の一つとして「休めなくなる」という症状が現れることも多い。休日なのに出勤したり、休憩や睡眠を取らずに勤務を続けようとするものである。「休めなくなる」という症状はともすると美談として扱われやすく、ストレス反応であることが見落とされがちである。第3には外傷性ストレス反応から派生する各種の症状で、バーンアウト、反応性抑うつ、アルコール依存などが含まれる。また支援者が災害で近親者を失ったときに、悲嘆が生じやすいことも知られている。さらには様々な物事の見方が変化する場合もある。それまで持っていた自信を失ったり、他者に不信感を抱いたり、世の中が安全でないと感じたり、世間が不公平であると感じたりすることもある。原因となるストレッサー:二次的外傷ストレスの直接的な原因は、被支援者やクライエントの外傷経験を聞いたことにあるが、その背景には支援者自身の未処理の外傷経験が存在すると指摘されている。 二次的外傷ストレスでは、支援者(臨床家)と似ているクライエントに共感してストレスを感じることが多い。同性、同世代、家族内の立場の類似、生育歴の類似などの外的条件だけではなく、語られた外傷体験が支援者の経験と類似しているときには、外傷性ストレスが生じやすい。惨事ストレスにおいては、遺体に接したり、無理心中や無差別殺人事件などの不条理な事件に出会ったりした支援者もストレスを受けやすい。活動状況に関して、最もストレスが強くなるのが同僚の死である。特に同僚の殉職は、支援者の心に深い傷を残す。惨事ストレスに悲嘆が加わってしまうからである。
松井豊「支援者のストレスやトラウマとそのケア」こころの科学、No.222/3-2022より引用

2022年03月03日
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