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2020-12-01

143.「コロナ後の世界」について、

 現在、国内のコロナ感染者数が、記録的に増えつつあり、「コロナ後」を考えるのは早計かもしれないが、しかし世界的に混迷が深まる中で、世界を代表する知性6名に質問した本がある。その中の一人、ジャレット・ダイアモンド氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLA地理学教授-「銃・病原菌・鉄」の著者)の話を聞く:コロナ対応に見る各国の首脳の印象について、危機対応時の、リーダーシップのあり方や資質の差が顕著に出た。トランプ大統領の場合、かなり酷いものだった。新型コロナの脅威を軽く見過ぎていた。イギリスのボリス・ジョンソン首相も当初は厳しい現実から目をそらしていた。ところが4月に自身が感染・入院したことで、ようやく事態の深刻さを認めた。ブラジルのボルソナロ大統領は国内の死者が2万人以上であるのに、「どうすることも出来ない」といって経済活動の再開を唱えるばかりで、未だに感染防御への真剣さが見えない。さて、日本のコロナ対策はどうか。アメリカにいる私から見ると、諸外国に比べて、よくやっているように見える。というか、アメリカやヨーロッパと比べると、日本は恵まれていると思う。欧米よりも政府の統制力が強く、個人の自由が制約されることへの国民の反発が少ない印象がある。日本では社会的な規範に反してまで、自己中心的な行動をする人が少ないと見える。では中国はどうか。一党独裁の政府は、ひとたび決断すれば強権的に緊急措置を実行することが可能である。しかし、民主主義国家よりも独裁国家の方が感染症について有効に対処できたかといえば、答えはノーである。昨年12月に新型コロナによる肺炎が発生したとき、中国政府は情報を隠蔽しようとした。民主主義国家では、そのような情報統制はほとんど不可能であるが、独裁体制であれば悪い決断でも迅速に行えるのだ。さて、ここから先は、ひとまずコロナの感染が収束したとして、依然として世界は様々な問題に直面している。核兵器、気候変動、資源枯渇、格差の拡大など。これらはいずれも地球的規模、グローバルな崩壊である。もし、このパンデミックが共通の脅威だという認識で一致し、世界が一丸となって解決することが出来れば、気候変動や資源枯渇という問題も続けて解決するチャンスになる。ところで、日本で問題だといわれていることの中には、実際にはそれほど問題ではないものもあると考える。たとえば人口減少について。もし、日本の人口が1億2600万人から一気に300万人に減ってしまったら大問題です。でも2050年の予測で、9000万人ほどに減るのであれば、それは問題ではなく、むしろアドバンテージと考えられる。日本は外国の資源に依存している。歴史を顧みると、日本は海外から資源を獲得するために苦心し、その結果、大きな傷を周辺国に残した。もし日本の人口が減少すれば、それだけ必要とする資源が減る。これは日本にとって悪いことでは無い。人口が減ったら経済力が落ちると心配する声もあるが、日本よりも人口が少ないにもかかわらず経済的に成功している国は沢山ある。オーストラリア(2500万人)、イスラエル(850万人)、シンガポール(580万人)、フィンランド(550万人)など。もう一つ、持続可能な経済を営むには、資源を枯渇させないように使う必要がある。かつて日本は持続可能な国であった。江戸時代、鎖国していたので、基本的に国内の資源で全て賄っていた。森林を守りながら木材を利用していたし、農業、漁業も同じように営んでいた。3000万人ほどだった江戸時代よりは大分多いが、人口が減れば持続可能な経済はより実現しやすくなる。また、日本の高齢者は世界の高齢者と比べて「エクセレント」に健康である。これは世界のどこよりも若者への負担が少ないのだ。日本の高齢化は日本人が思っているほど大きな問題ではない。問題は高齢化ではなく、定年退職というシステムである。定年で高齢者は強制的に労働市場から退場させられる。日本の定年は65歳に引き上げられたそうだが、アメリカでも、30年前までは定年制度があった。今ではパイロットなど、一部の職業を除いて、違法になった。日本人の高齢者も同じように素晴らしい人的資源であるという理解をしてほしい。もし70歳で引退したい人がいればそうすれば良い。働き続けることを義務づけるべきではない。少子高齢化は世界的傾向であるが、他の国は日本ほど心配していない。スペイン、イタリア、シンガポールなど日本より出生率の低い国もある。なぜか。それは移民を受け入れているからだ。仕事を望む高齢者や移民、女性を労働市場に迎え入れれば、少子高齢化が進んでも、日本の経済力が大きく低下することは無いはずである。大局的に見れば、日本は今でも世界第3位の経済大国である。1位と2位はアメリカと中国であるが、日本の人口は1億2600万、中国は14億、アメリカは3億3000万、日本の11倍、あるいは2.5倍もある。景気が後退するといっても、それは「非常に裕福な国」から単に「成功した国」に変わったということである。少なくとも、アメリカやヨーロッパの人々から見る日本は、経済力が弱くなっているなどとは全く思っていない。
-「コロナ後の世界」-世界の知性6人に緊急インタビュー、文春新書より引用-

2020年12月01日
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