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2011-06-27

30.うつ病診断の増加について

 1)操作的診断の普及による診断率の増加
DSM-Ⅲ診断基準の登場以降、操作的に規定された精神疾患の患者数が大きく増えたばかりではなく、診断される患者の数も急激に増えている。従来、精神科の診断は主語診断、イデア診断とでも呼ぶべきものであり、仮想の病因診断であるため診断が難しく、専門家以外は診断が困難であり、本質的に過小診断、過小治療のリスクを内在していると考えられる。その一方で、操作的な診断は述語診断、みかけ診断とでも呼ぶべきものであり、操作的に規定された状態のカテゴリー診断である。従ってマニュアル的に使うことが可能であり、専門家でなくても操作的に診断できてしまうところが特徴である。従って操作的診断は本質的に過剰診断、過剰治療のリスクを有しており、これが今日のうつ病患者増加の一因となっている。実際2005年に、精神科診療所を対象とした調査では、「うつ病の診断の範囲が広がりすぎている」と答えた医師が40%、「ややそう思う」と答えた医師が37%と、8割近い医師がうつ病診断の拡散に懸念を示していた。さらに最近受診するうつ病患者の病像の特徴として、23%の医師が「診断基準を満たさない軽症のうつ状態」と答えており、「不安症状が前景のうつ状態」という回答が20%と続いた。このことからも古典的な内因性の病像ではないうつ病患者の受診が、今日のうつ病患者急増の大きな要因と考えられる。

2)安易なうつ病診断の増加
従来の病因論に基づいたうつ病の診断や分類に代わって、症状と経過に基づいた操作的な診断基準が普及したことにより、診断基準を満たさないケースまでもが安易にうつ病と診断されることが多くなったことも、今日のうつ病患者急増の要因の一つと考えられる。ここで操作的診断基準を擁護する立場からは、適切に診断基準に沿った診断を行えば不適切なうつ病診断は防げると言われるが、操作的な診断基準は本質的に過剰診断のリスクがあることは事実である。

3)みなしうつ病、見かけうつ病の増加
さらにうつ病の疾患啓蒙による精神科や心療内科受診の敷居が低くなり、ごく普通のうつ状態や一過性の抑うつ反応のケースも受診するようになったことも背景にある。人生上の正常な悩みや落ち込みまでが医療の対象になったり、抑うつ気分を伴う適応障害が軽症うつ病と診断されたり、保険病名のうつ状態がなし崩し的にうつ病と言う診断に変更されるケースも非常に多いと推定される。これはSSRIの登場により、軽症うつ病の疾病啓発が盛んに行われたことも関与している。ところが軽症のうつ病に対する抗うつ薬、特にSSRIの有用性を示すエビデンスがないことが今日ますます明らかとなっている。
 ー抗うつ薬の真実、田島治著、星和書店2011.4より引用-

2011年06月27日
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