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2018-05-30

113.パニック症におけるストレス、

パニック症とは、動季・呼吸苦を伴う不安発作(パニック発作)が繰り返される疾患である。この発作は予期されず突然に起き、かつ強い恐怖を伴う。さらに「また発作が起きるのではないか」という恐怖感(予期不安)を持ち、これまで普通に行えていた外出や日常生活を避けるようになる。また、映画館や電車内のようにすぐにそこから逃げることが困難な公共の場所を恐れるものを「広場恐怖agoraphobia」という。この広場恐怖はパニック症と関連が深い。厚労省の研究班による一般住民を対象とした疫学調査では、パニック症の生涯有病率は0.8%であった。また、米国では4.7%という報告があり、日米での差はあるがいずれにせよごく希な疾患というわけではない。また、調査では、女性の方が男性より2.5倍多く、パニック発作は10代後半や成人期早期に始まることが多い。このパニック症は適切な治療が為されず、慢性に経過すると、QOLは大きく損なわれ、さらにうつ症状・引きこもりをまねくことがある。  
身体的ストレスによるパニック症:パニック症には、ノルアドレナリン系・セロトニン系・γアミノ酪酸系が強く関与している。また、脳の部位としては、青斑核・大脳辺縁系・前頭前皮質という責任部位が想定されている。
 パニック症患者は、コーヒー・紅茶・コーラ・たばこ・ドライアイス・カフェイン・ヨヒンビン等の物質を使用すると発作が誘発されることがある。実際にパニック症患者287名のうち、コーヒーを飲んだ後にパニック発作や不安を訴えた人は54名(18.8%)という報告がある。また、カフェイン10mg/kgを経口的に内服すると、パニック症患者の71%に、恐怖・緊張感・嘔気・動悸・振戦というパニック様の症状が出現したが、健常対照群では出現しなかったという報告がある。健常対照群で出現しなかったということは、カフェインはパニック発作の原因ではないが、誘発因子としては重要であるといえる。
 また、乳酸を注入することでパニック発作が誘発されるという報告がある。しかし、血中乳酸値の上昇自体がパニック発作を誘発させるわけではない。パニック症と健常者10名ずつに、AT(無酸素性作業閾値)に達する心肺運動負荷試験を行い、乳酸の上昇がパニック発作を誘発するか否かを調べた研究では、パニック症患者全員がATに達し、乳酸が上昇したにもかかわらず、運動による発作は誘発されなかった。この研究から、運動により頻呼吸や軽度の息苦しさは起きるものの、それ自体がパニック発作を直接的に引き起こすとはいえない。むしろ、乳酸性閾値(血中の乳酸が急激に上昇し始めるような運動強度)下での運動は、不安障害に有効という報告や、パニック症の治療において有酸素運動が不安症状を減らすのに有効であるという報告もある。このため適度な運動を勧めることが治療の一助となる可能性がある。「適度な運動」は個人差があり一概には決められないが、実際の指導としては、「おしゃべりできるようなニコニコペースで20分間ごくゆっくり走るのを週2回」など、患者本人が自分で目標を決めたように進めていくことである。もし、広場恐怖が強く、外出して運動することが困難な場合、または運動が苦手だという方には、瞑想・マッサージ・好きな音楽を聴くこと・呼吸法・筋肉の緊張と弛緩を繰り返すリラクゼーション(筋弛緩)法を指導することも選択肢である。

-兼久雅之et al.「パニック症におけるストレス」Vol.21No.4.2018よ引用-

2018年05月30日
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