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2018-07-03

114.パニック症はどこまで薬物療法で治せるのか?

パニック症(panic disorder:PD)の治療には、薬物療法と認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)に代表される精神療法があり、併用がより有効である。PDに関する薬物療法の治療ガイドラインのほとんどは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬の単剤投与、必要に応じてベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZD)の併用が推奨されている。しかしながら、PDは急性期治療により症状は軽快するものの、決して容易に寛解に至るわけではなく、エピソードの平均期間は6~8年ともいわれている慢性疾患である。さらに、患者の半数が14.5週間以内に再発するという報告もあるように、再発しやすく、長期の治療が必要となる慢性疾患である。しかも、他の不安症や気分障害との併存が多いのも周知のことである。では、どこまで薬物療法で治せるのであろうか。
治療の現状-最近の主な治療ガイドラインから
ドイツでは、403の不安症に対するランダム化比較試験の結果、グレードAの薬剤として、SSRI(パロキセチン・セルトラリン・エスシタロプラム。シタロプラム)、SNRI(デュロキセチン・ベンラファキシン)、グレードBは三環系抗うつ薬TCA(クロミプラミン)-グレードAの薬剤が無効あるいは不耐性の場合に使用-となっている。また精神療法、認知行動療法はいずれもグレードAであり、グレードBとして、力動的精神療法(CTBが提供できない、あるいは無効の場合)となっている。運動(持久力トレーニング)や患者自助グループ・家族サポートグループ活動は、CCP(臨床的なコンセンサス事項)として推奨される。同じくカナダ不安症学会のガイドラインでは、やはり薬物療法とCBTの併用が指示されている。しかしながら、①第一選択医薬の効果が生じる投与開始から4~12週間、パニック発作(PA)を消失または最小限にするためにBZDが必要な場合もある②重篤かつ頻度の高いパニック発作が生じている患者③広場恐怖症が急速に悪化している患者④自殺念慮のある患者⑤中等度から重度のうつ病を併存している患者においては、CTBのみでは治療効果は不十分であるとされている。つまり、PDの中でも、PAや広場恐怖の症状がより重く、中等度以上のうつ病の併存している場合には、薬物療法を優先すべきであるとされる
治療の限界-パニック症の長期経過
これまで行われてきた長期の臨床経過観察の研究(20論文)では、PDの薬物療法による寛解率は20~50%、寛解後の再発率は25~85%であった。つまりPDは寛解しにくく再発しやすい慢性疾患であるということである。故にPDに対する薬物療法は、年単位にわたり行う必要がある。ここで、PDに対する治療抵抗性要因としては、正確な病態生理が不明であること、環境因子として長期持続ストレスや小児期のストレス、患者関連因子として身体合併症や服薬遵守の不良あるいは他の精神疾患の併存、治療関連因子として、プライマリー・ケアにおける知識の欠如、CBTトレーニングの欠如等いくつかの要因が挙げられる。なお、薬物療法とCBTや行動療法などの精神療法での治療効果の違いについて、Cochrane Libraryの最近のレビューによれば、SSRIあるいはTCA、BZDなどと、精神療法の間には、短期反応率・短期改善率・短期寛解率・治療中断率の4項目において、有意差は認められなかった。しかし、Bandelow(2015)らの不安症群(社交不安症や全般性不安障害も含まれた)を対象としたメタ解析では薬物療法は優位に精神療法より有効という結果が出ている。
-塩入俊樹「パニック症はどこまで薬物療法で治せるのか」Vol.120 No.3 2018精神神経誌より引用-

2018年07月03日
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