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2018-07-30

115.周産期のうつ病について、

周産期とは、妊娠22週から生後7日未満と定義されている。定義の背景は、従来産婦人科の領域だったこの時期に、胎児や新生児・母体に障害が起きたときに、迅速に対応できるよう、産科と小児科が協力して、母子を総合的に管理し、分娩を迎えるという周産期医学の考えがある。しかし、精神疾患と妊娠に関わる話題を論じるには、周産期をあえて挙児を希望する時期から全妊娠期間および産後数ヶ月以内の、より広範囲の期間を想定して議論をする必要がある。
1,妊娠期間中のうつ病の罹患率は決して低くない 
最近の研究では、妊娠中の女性で大うつ病の診断基準に該当する患者は6.5~12.9%という報告がある。非妊娠時の有病率と全く変わりない。Kitamuraらの研究では、初産婦や中絶歴のある妊婦、親との早期の死別、夫からのサポートの乏しさや否定的態度などがリスク要因としてあげられている。また、妊娠中の治療中断群では、治療継続群に比べて、およそ3倍再発率が高いという報告がある。これらのデータは、うつ病患者の薬物療法を妊娠により安易に中断することはうつ病の悪化を招くリスクがあることを示している。
2,妊婦の心性や環境要因は早期発見・受診をおくらせている
 妊婦や産褥婦のメンタルクリニックへの受診率が低く、周産期での対応が遅れるリスクが指摘されている。妊婦自身が精神科受診を拒む傾向や周囲も進んで受診させる姿勢が乏しいことが背景にある。時には、アルコール飲酒や喫煙などで自身の気持ちを紛らわす行動に出ることも懸念される。前者の場合、流産や早産、低出生体重児の他、胎児性アルコール症候群(発達遅延・小頭症・異常顔貌など)のリスクもあり、うつ病やストレス状態にはやはり適切な医療レベルの対応が必要である。受診・治療の遅れはうつ病を難治化させる要因となるため、産科医と精神科医の医療連携が重要である。産後うつ病のスクリーニングとして、エジンバラ産後うつ病質問表(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)がよく知られている。
3,治療はリスクとベネフィットで、治療計画を図る
 治療のfirst choiceは非薬物療法的アプローチであるが、認知療法や対人関係療法を施せる
治療施設は限られている。うつ病は軽症から精神病症状を呈する重症なものまで幅広い。いわゆる神経症圏に属し、ストレス葛藤要因と関連性の深いうつ病については、前述の専門性の高いカウンセリングもさることながら、患者の不安に対して、十分な時間を取り、家族、特に夫に対して患者に対するサポートの重要性を心理教育するアプローチが必要である。一方で、中等度以上のうつ病には、薬物療法が必要となる。この場合には薬物療法を行うことのリスクとベネフィットを考慮して、最低限の薬物療法を行うこととなる。
4,産褥うつ病に対する対応
 産後は急激な内分泌変化と心理的変化、環境変化により産褥うつ病の発症リスクが高まる時期である。発症時期はDSM-5診断基準では産後4週以内とされるが、臨床現場では数ヶ月以内と捉えることが多い。また、産後うつの50%は、実際には出産前から発症しているといわれている。妊娠期にうつ病に罹患している女性は、産後うつ病になる率は3倍高くなるとの指摘もある。産後は母子が孤立しがちで患者の変化に気づかず、うつ病が重症化しやすいため、EPDSなどを活用して早期発見に努める。母子の心中や乳児虐待、子供の精神発達に関わってくるので、軽視してはいけない。
鈴木利人「周産期のうつ病」depression jounal Vol.3No.3 2014より引用

2018年07月30日
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