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2019-04-29

124.不妊症とうつについて

日本人は、年齢や結婚あるいは子供の有無を、他人に聞くことがタブーではない不思議な民族で、欧米人には考えられないことである。これらの理由から、日本では不妊症女性の精神医学的な問題が起こる原因の一つと考えられる。
1.不妊症から不安・抑うつ
不妊症女性の心理で最も研究され、重要性が指摘されているのは「不安」と「抑うつ」である。「不安」は不妊症検査や治療に対するストレス、あるいは治療が失敗する恐れから来るとされる。一方「抑うつ」はなかなか妊娠できない、あるいは今回の治療でも妊娠できなかったいう落胆から来るという。これら精神的因子は不妊症の結果であることは明らかである。日本の不妊症女性の「不安」と「抑うつ」に関与する因子分析では、夫のサポート不足とストレス感がそれぞれ30%ずつ関与していた。また誰のプレッシャーを強く感じるかという問に対しては、義理の父母と親戚が上位を占めた。これは日本独特の物かもしれない。何故ならば外国では通常、不妊クリニックには夫婦で通院し、夫のサポート不足という回答はあり得ない。また、外国では、両親や親戚が夫婦の問題に口を挟むことは基本的にない。「お子さんはまだ?」「早く孫の顔が見たい」など、軽卒でおせっかいな一言が多い日本の習慣に問題があるとも考えられる。
2.「不安」は妊娠率の低下を起し、「抑うつ」はあまり影響はない
1978~2010年の間に発表された31論文のメタ解析によれば、ストレス(認知できるストレス、仕事のストレス、人生の中での重大な出来事など)、ジストレス(不安、抑うつ)と体外受精での妊娠率 の検討によれば、「ストレス」と「不安」が体外受精の妊娠率を若干低下させる(8~14%低下)という結果が得られたが、「抑うつ」と妊娠率低下の関連は認められなかった。
3.「不安」と「抑うつ」の改善策(心のケア)をすると妊娠率は上昇する
妊娠率を上げるため、個別の心理療法(心理カウンセリング)を含めた心のケアについて、2014年4月までに発表された、体外受精における心理サポート(介入)プログラムを実施した39論文のメタ解析によると、心理的要因(主に「抑うつ」と「不安」スコア)は0.59倍と有意に改善し、妊娠率は2.01倍と有意に増加した。心理サポートプログラムの内容は認知行動療法と心身医療介入が有効であった。
4.「不妊症」と「うつ病」の関係
デンマークで体外受精を受けた42915名の女性のデータから、不妊治療(体外受精)によりうつ病は増加しないこと、むしろ一般集団よりも罹患率は低いこと、うつ病患者の体外受精の成績は良くないことが明らかになった。不妊治療が上手くいかないと、確かに「抑うつ」状態にはなるが、「うつ病」とは関係が無いことが判明した。
5.体外受精治療中の人種間の違い
米国人の34%は1~2回採卵が上手くいかないと治療を終了するが、多くの中国人は妊娠するまで治療を諦めない。つまり、子供のいない生活を考えたり、養子縁組になかなか踏み切れない。これらの観点から、中国人は長期間にわたり心理的精神的にダメージを受け続けている可能性があるが、日本人も同様な考えを持つ傾向があり、体外受精治療中において心理的精神的なダメージが長期にわたり持続していると推察される。
-松林秀彦「不妊症とうつ」Vol.7 No.1:4.2019 .Depression Journalより抜粋引用-

2019年04月29日
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