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2022-08-01

163.日常診療の伝える工夫と「たとえ話」について、

A疾患に限らず汎用している言葉:1.将来が見えないと不安に苦しむ人に対して、焦りをおさえて落ちついてもらうために。#人の力は限られています。予知能力はありません。人工衛生を使って科学的に明日の天気を予想してもはずれてしまう。考えても分からないことは考えない。今を生きているので、今できることをしましょう。今を大事にすれば、きっと未来に繋がります。2.自分で自分を縛って苦しくなっていることに気づいてもらうために。#「~べき、~ねばならない」と自分を縛る考え方は、少ない方が良い。ただでさえ世の中は動き辛いですから。頭の中で”~べき”とか”~ねばならない”が多いと自分を縛って身動きが取れなくなります。”アレもあり、コレもあり”。本当に”~ねばならない”は案外少ないと思います。”~べき”の半分できれば大成功と考えてください。
B対人関係の不安が強い人に:1.人に見捨てられるのではと必死に頑張ったり、気を遣い続ける人に対して。#泳げない人が海に落ちると、必死でもがき続ける。一瞬でも手足を止めると海の底に沈んでしまう恐怖に襲われる。でも、人は手足を止めると、浮くようにできているのです。怖いだろうけど、一度力を抜いて浮いてみてください。2.周りの人の言葉に揺れ続ける人の不安を和らげるために。#人の言葉を三つに分けてストレスを減らしましょう。①あなたのことをよく知っていて、日頃から言動の尊敬できる人の言うことは重く受け止めましょう。②あなたのことをよく知らずに言っている人の言葉はただの見当違いです。③そもそも日頃から言動の尊敬できない人の言っていることはただの雑音です。①尊重する言葉②見当違いの言葉③ただの雑音について、均等に受け止めないようにしましょう。3.人にどう思われているかと顔色を見続けて疲れてしまう人に。#自分の中に自己評価の物差しを持ちましょう。人にどう思われるか、何を言われるかで揺れるのではなく、「自分がこうしたい、これが好き、これだけはしたくない」という物差しに合っていれば合格です。人に「何でそんなことしてるんだよ」と言われても、反論は簡単です。「だって好きなんだもん」と言えば良い。自分の人生ですからね。人にどうこう言われるものではないです。
Cうつ病の初期理解のために:うつ病の治療初期は休養と薬。休むと言っても内科の絶対安静とは違い、気が休まっていることが大切です。休んでいる自分をダメになるとか責めるのではなく、安心して休むことです。義務感から自分を奮い立たせるようなことは止めて、気が進むことを疲れない程度にやることが正しいうつ病の休養です。
Dうつ病の回復期や復職前の指導のために:うつ病は元通り治り、元通り再発する。休養と薬で寛解して、半年~1年で卒業おめでとう、それで良いでしょうか。考え方、対処方法、周囲の人との関係など何かに無理があって病気が出たわけです。治ることは大切ですが、一番大切なことは、もう二度とうつ病にならないことです。発症要因をよく探求して、再発予防まで身につけてこそ本当の回復です。休養と薬だけではなく、自分の考え方、対処法などの改良についてもしっかり考えていきましょう。
E働き方やストレスマネージメントについて:仕事で気になることはノートに書いて、パタンと閉じてサッサと家に帰りましょう。考えても時給はつきません。身も心も捧げるほど高い給料をもらっていますか?グルグル考えても良い考えは浮かばない。疲れ果てて具合が悪くなってしまう。仕事にも返ってマイナスです。切り替えが大切です。仕事が終わったら、on offをつけて余計なことは考えないようにしましょう。
F働き過ぎに気づいてもらうために:人生も生活もマラソン、ペース配分が大切です。少し前に引退した陸上100mのウサイン・ボルト選手はとても速い。でも、あのスピードでマラソンは走りきれません。仕事でも勉強でも、全力疾走だけでなく、完走できるペースに知恵を絞りましょう。ウサギより亀が勝ちます。焦らないこと、あきらめないことが大切です。
G自分はダメだ、何をやってもうまくできないと落ち込む人に対して:本当にそうでしょうか。100じゃなくてもゼロではないですよね。全盛期のイチロー選手でも、10回中6回はアウトですよ。思った通りにできることなんて滅多にないですよ。思ったことの半分でもできれば大成功ですよ。亀は遅くてもあきらめません。自分はダメだと決めつけるのは止めましょう。日々のことは、「大体良ければ、まあいいか」。先のことは「なんとかなるさ」としておくのが一番です。
H失敗の後悔だけを引きずる人に対して:失敗は勉強したと思うようにしましょう。昔オリンピックで何度も金メダルを取った水泳のK選手の話です。よく大事な時期に悪いタイムを出した。周囲が心配する中で、本人は「イヤー、良かった。今日は問題点が明らかになった」とまるで喜んでいるような素振りです。失敗は勉強、伸びしろ、成長の元です。この超ポジティブ思考を少し分けてもらいましょう。

以上、精神科の治療は外来から入院、リハビリまで、いかに「自分の病気について理解を深めてもらうか」を続けることに尽きます。永く診療を続ける中で、色々と説明をしてくると、その中で「たとえ話」も工夫が必要になってきます。
片山信吾「日常診療の伝える工夫とたとえ話」より引用-精神科治療学Vol.37,No7 Jul.2022

2022年08月01日
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