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2023-04-04

171.フードテックの新潮流-ゲノム編集から食べるワクチンまで、その1.

今回は「食」について、現在進行している大きな問題を取り上げてみます。
2020.6に開かれた世界経済フォーラム(WFE)のテーマとして、全ての人の運命を変えるある計画が発表された。「グレートリセット」である。年に一回開かれるWEF年次総会では、世界中から招待された、億万長者と有力者たちが、今後世界を引っ張ってゆく方向性と戦略を話し合う会議である。新型コロナウィルスに気候変動、人口の増加、森も水も動物たちも虫の息、化石燃料は枯渇し、増え続ける人口を養うための食料生産はとても追いつかず、もはや地球は限界である。今こそ全てを壊してガラガラポン、新しい仕組みを作らなければならない。食のシステムをリセットするため組織「EAT」を基に米国、EU、アジア、南米、アフリカ、オーストラリアなど、世界各地をつないだ、新しい食システムの大計画が進められていく。
資金協力で顔を並べるのはマイクロソフト創業者ビル・ゲイツ、穀物のカーギル、種子のシンジェンタ、畜産のタイソンに、化学のバイエル、ユニリーバ、ワクチン大手のグラクソ・スミスクライン、流通のアマゾン、そしてテクノロジーの最大手グーグルである。
 2021.2に著書「地球の未来のため僕が決断したこと」を出版したビル・ゲイツによると、解決策は我々人間が肉食を止めることと、AIが制御するデジタル農業だという。気候変動もウィルスも待ってくれない。感染症の脅威を高める、不衛生で危険で大量の温室ガスをだし、土壌を劣化させ、人間をウィルスとの危険な接触にさらす農業や畜産は、できるだけ早く最新テクノロジーで置き換えなくてはならない、と。農民がいなくてもAIがデジタル農業を営み、土がなくても野菜は育ち、鳥や豚や牛や魚や乳製品は遺伝子操作とバイオ技術で作り出せる。必要な栄養も全て添加できる。人類はかつて無いほど進化したテクノロジーの時代に突入したのだ。そしてこのような技術は、未来の食と農業を持続可能にして、我々は気候変動やウィルスや、食糧危機の不安から解放されるという。ただし、個人に任せていては間に合わないとして、世界経済フォーラムとEATは、国連や各国政府と連携して、直接ルール変更するように指示を出している。「食のグレートリセット」に沿って、ヨーロッパでは、政府が畜産頭数を制限し、家畜の出す温室効果ガスに課税し、肥料を危険産業廃棄物に分類し、農家による伝統的な種子保存を犯罪化し、農地を回収する政策が始まった。米国オレゴン州で準備されているのは、肉の販売と消費を事実上禁止し、家畜の人工授精や去勢を「性的暴力」とみなす新しい法律だ。
 日本でも菅義偉元総理大臣・岸田文雄総理共にグレートリセットへの協力を宣言しており、農水省がロボットやAIなどのテクノロジーとバイオ技術を軸にした「みどりの食糧システム戦略」を打ち出している。
 一連のこの流れにより特需の恩恵を受けるウオール街は笑いが止まらない。パンデミックと食糧危機とに紐付けられた「気候変動対策」に、各国政府から巨額の税金が投入され、SDGs(持続可能な開発目標)や気候変動関連の投資商品が売れに売れ、今や飛ぶ鳥も落とす勢いだからである。このことから分かるのは、今やデジタルテクノロジーによる一元支配が、いよいよ食と農の分野に参入し、急速に勢力を拡大してきているということだ。食を巡る巨大市場のその裏で、一体何が起こっているのか、我々は冷静にその本質を見抜かなくてはならない。
 一例を挙げると、人工肉バーガーがある。2019.4.アメリカで100%植物性の挽肉から作られた「インポッシブルバーガー」をミズーリ州セントルイスのバーガーキングで食べたときの感動を、ミズーリ大学に通うリチャード・アロンソンはこう語る。「そのバーガーを初めて食べたときの味と食感に感動した。まるで炎で焼いたような風味があり、パテは本物に近いのです。ベジタリアンの妻も、牛を殺さないのが素晴らしいと喜んでました。値段が少々高いですが、地球環境が守られて、牛も人間もハッピーになる、ようやく夫婦で肉を楽しめる時代が来た」こう話す本人は肉を愛する20代の典型的アメリカ人、同じ大学に通う妻は動物愛護のベジタリアンである。このパテを提供したのはインポッシブルフーズ社であるが、人工肉(動物由来肉の代用品)業界におけるトップ企業である。牛肉の食感を楽しめて、味も美味しくて製造コストが安い。子牛から飼育して出荷まで2年掛かり、毎年大量の穀類飼料と1頭あたり4万リットルの水を消費する肉牛よりも、工場での加工は圧倒的にコストが安く、完成までの工程は無駄なくスピーディーだ。さらに成分は大豆なので、牛のように気候変動を起こすメタンガス入りのゲップもゼロ、人工肉はSDGsの観点からも、素晴らしく優秀だとアピールする。しかし、インポッシブルフーズ社の人工肉には、肉汁の赤い色を作り出すヘムを作る酵母だけではなく、肉を構成する大豆にも遺伝子組み換えのモノを使っている。この事実が判明すると、たちまち食の安全や環境保護活動家、各種市民団体から、規制当局であるFDA(米国食品医薬品局)へ規制を求める署名が提出され、インポッシブル・フーヅ社は集中砲火を浴びることになった。中でも正面切って強い批判の声を上げたのは遺伝子組み換え食品と、大豆生産時に使われる「グリホサート系除草剤」に反対する市民グループMAA(全米母親の会)であった。実はこの「グリホサート系除草剤」は、元々モンサント社(現在バイエル社に買収された)の開発した除草剤で、インポッシブルバーガーにはグリホサート系残留物が11PPM検出検出されたが、0.1PPMでも、実験用マウスでは腎臓や肝臓に深刻な臓器障害を引き起こす事が確認されている成分である。このインポッシブルバーガーには、臓器障害を起こす大量の除草剤が残留している上に、GM(遺伝子組み換え)酵母とGM大豆ヘモグロビン蛋白が含まれている。また塩分がとても高いし、添加物や保存料が多いのである。英国のハートフォードシャー大学栄養生化学科のリチャード・ホフマン博士曰く「人工肉の多くは植物由来をアピールしているが、<超加工品>に違いありません。工場で作る際は、乳化剤や結合剤のような添加物をたっぷり使われています。食べ続ければ当然、肥満やⅡ型糖尿病、ガンのリスクが高まります」という。この事実を消費者はよく考える必要がある。

-堤未果著「ルポ食が壊れる-私たちは何を食べさせられるのか?」(文春新書)より抜粋引用-

2023年04月04日
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