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2023-06-02

173.日本人は集団主義」というのは本当か?ついて、

      「日本人は個性がない」「日本人は和を乱すまいとして、みな同じように行動する」といわれている。本当だろうか。周りの日本人を見わたしてみよう。「自己チュー」や「へそ曲がり」、「空気が読めない人」はいないだろうか。引っ込み思案、目立ちたがり屋、瞬間湯沸かし器、一言居士・・・いろいろな人はいないだろうか。
しかし、「日本人は、皆同じように考え、同じように行動するので、個性がない」というのは、世界の「常識」である。「日本人は、集団の和を何よりも大切にするので、集団と一体化しようとするあまり、自分というものを無くしてしまっている」--このように日本人論は繰り返し説いてきた。だが、科学的な研究は、この常識を真っ向から否定している。
そもそも日本人は集団主義という「常識」は、科学的な研究から出てきたわけではない。その証拠とされてきたのは、ほとんどが個人的な体験や伝聞、ことわざ等の「事例」にすぎない。例えば、「出る杭は打たれる」ということわざ。「日本人の集団主義」の象徴として頻繁に引用されてきた。英語の学術論文にまで登場する。しかしことわざといっても様々である。中には正反対のことわざもある。「出る杭は打たれる」の代わりに、「憎まれっ子世にはばかる」とか、「先んずれば人を制す」とかいったことわざを持ち出せば、「日本人は個人主義のエゴイストだ」という主張を「証明する」こともできるだろう。
個々の事例は好き勝手に選べば、どんな主張でも「証明する」ことができる。だから、「日本人は・・」というような議論をするためには、個々の事例に頼るのではなく、きちんとした比較をしてみなければならない。例えば、「世界で一番個人主義的」というのが通り相場になっているアメリカ人との比較をしてみる。「きちんとした比較」をするためには、同じような場面で比較する必要がある。何故ならば、身長193cmの大谷翔平と身長170cm(?)のトム・クルーズを比較して、「日本人のほうがアメリカ人よりも背が高い」と結論できるだろうか。もちろんそんなことはできない。
「平均的な日本人」と「平均的なアメリカ人」とか、「20才の日本人男子」と「20才のアメリカ人男子」とか、いずれにしても、同じような人たちを比較する必要がある。
近年心理学では、集団主義・個人主義を巡って、「同じような人たち」を、「同じような場面」で比較した国際比較研究が数多く行われてきた。これらの研究の結果はどうなっているのだろうか。この種の研究には、2つの手法がある。調査研究と実験研究である。
調査研究とは、調査用紙を配って、そこに書かれている幾つもの質問に答えてもらう。「同じような場面」は、その質問によって設定されている。
例えば、「あなたが忙しいとき、職場の同僚が1週間かかる仕事を手伝ってほしいと頼んできたら、どのくらい手伝うか」。「(1)1日も手伝わない」から「(5)7日間手伝う」まで、5つの選択肢を用意して、イロイロな国の、「同じような人たち」にどれかを選んでもらう。「1日も手伝わない」を選べば、「非常に個人主義的」、「6日間手伝う」を選べば「かなり集団主義的」ということになる。たくさんの質問への答えを平均して、その人たちがどれくらい個人主義的なのか、集団主義的なのかを推定する。
一方、実験研究では、実験室に来た人たちに、なにか課題をやってもらい、そのときの行動を観察する。
例えば、「同調行動」の実験では、一人で答えれば、まず間違えないような簡単な課題に答えてもらう。しかし、実際には、その課題に、一人ではなく、他の何人もの被験者と一緒に答えてもらう。実は、その「他の何人もの被験者」は、みな「サクラ」なのである。彼らは時々、全員そろって、明らかに間違った答えをいう。その時に本当の被験者はどう答えるか?-それを観察するのだ。もし、その被験者が皆に合わせて、その明らかに間違った答えを言ったとしたら、「集団に同調した」ということになる。自分の判断をねじ曲げて、集団に合わせるという、「同調」は、まさしく「集団主義」の核心である。
この実験は、最初「世界で一番個人主義的」といわれるアメリカ人を被験者に行われた。何回同調したか、その割合を示す「同調率」は、37%であった。その後、同じ方法で8つの実験が行われたが、同調率の平均は25%であった。日本人について、同じ方法で行なわれた5つの実験を調べてみると、同調率の平均は25%であった。驚いたことに、アメリカ人と全く変わりが無いのだ。どうやら日本人は特別に集団に迎合しやすいというわけではないらしい。日本人とアメリカ人を比較した研究は、このような同調実験をはじめとして、調査研究も含めて全部で43件見つかった。それらの研究をまとめると、1)日本人とアメリカ人の間には差が無かった、という研究が一番多くて、24件。逆に2)アメリカ人のほうが集団主義という研究が、13件。3)いや日本人の方が集団主義という結果は6件であった。科学的な方法できちんと比較してみると、日本人は、「世界で一番個人主義的」というアメリカ人と比べてみても、特に集団主義的というわけではないのだ。科学的な比較研究の結果がこう出ている以上、「日本人は集団主義」という常識は間違いだったと考えるべきである。
高野陽太郎「日本人は集団主義」という幻想-日本の死角-より抜粋引用

2023年06月02日
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